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LORD OF SPEED
第三章
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「怖いって思ってな」
「それに気付かないとそれを克服できない」
「そういうことか」
「ああ、恐怖を克服するには恐怖を知ること」
 俺は確かな笑みで言った。
「そういうことなんだよ」
「だからか。タイムも伸びたんだな」
「怖いって気持ちを克服できたから」
「それでか」
「ああ、よっくわかったよ」 
 こう言いながらフェットチーネとミルクを腹の中に入れていた。確かに俺は俺の中にある恐怖って感情に気付いた。俺にはないと思っていた感情に。
 そしてそれがカーブを曲がる時のスピードにも影響していることがわかった。それならだった。
 俺はさらに練習をして恐怖ってやつを克服しにかかった。確かに死にたくない、怪我をしたくなんかない。
 それでもだった。風になる、あいつに勝つ為に俺はその恐怖と戦った。俺の中にあるその感情と向かい合った。
 そうして何度もやっているうちにだ。俺のタイムは少しずつ短縮されていった。
 その上で俺はレースに向かった。いよいよあいつと、風との戦いの時だ。
 俺は自分の車に乗りながらだ。前を見てスタッフの面々に言った。
「行くか」
「ああ、頑張ってくれよ」
「気合入れてくれよ」
「勝ってくれよ」
「絶対に勝つさ。俺は風だからな」 
 風になる、だからだった。
「あいつにも勝つさ。赤いあいつにな」
「風は誰にも負けない」
「だからだな」
「風ってのはひたすら速いんだよ」
 少なくとも俺はそう確信している。
「あいつを抜いても終わりじゃない」
「さらに速くなるんだな」
「もっと」
「ああ、音速だって超えてやるぜ」 
 本気だった。何時かは絶対にやってやるつもりだった。
 俺はその音の壁さえ見てそのうえで車に乗り込んだ。そして。   
 レースに走る。目の前にあいつの赤い車がいた。それを見て。
「見てろよ。絶対に抜いてやるからな」
 こいつも風も全部抜いてやると決めた。俺は今風に、本当に風になる為に戦いに入った。レースという戦いに。


LORD OF SPEED   完


                              2012・8・3
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