Side Story
少女怪盗と仮面の神父 39
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けたがる娘に、ハウィスは上半身で振り返って目を細めた。
「お願いよ、ミートリッテ」
悲しみや怒り、諦めや切望。
様々な感情が複雑に入り乱れた難解な笑顔は、直ぐ様闇に溶けて消えた。
そして。
ハウィスの声色を著た冷酷無比な宣言が、ミートリッテの耳を貫く。
「……当代リアメルティ領主・ハウィス=アジュール=リアメルティの名に於いて、隣国バーデルよりの侵領者イオーネを……断罪する」
断罪。罪を裁く事。
領主のハウィスが、密入国者のイオーネを。
元義賊が、元一般出の侍女を。
……加害者が、被害者を……裁く。
「遺したい言葉があるなら、聴こう」
眼前に切っ先を突き付けられたイオーネは、敵の喉笛を噛み千切ろうとする肉食獣にも似た険悪な顔でハウィスを睨み……ふと、微笑んだ。
嬉しそうに。楽しそうに。
肩を揺らしてクスクス笑う。
「良かったわねぇ、ハウィス。殿下が爵位をくれたおかげで、今後は誰に脅かされる心配も無く、仔猫をずーっと傍に置けるじゃない。ついでに、隠しておきたかった過去も消し去れて。嬉しいでしょ? 嬉しいわよね? 他人を踏み付けて手に入れた幸福は、この上も無く甘美でしょう?」
「…………嬉しい? 幸福?」
あははと高らかに笑うイオーネ。ハウィスは
「何処に、あるの? そんなもの」
かつてなく低い声を。ぴんと伸びた背筋を。月光で輝く剣身を。小刻みに震わせる。
「ミートリッテは……生きたいと、言ったのよ? 明らかに誰の庇護も受けてない凄惨な姿で、自分を見棄てた人間達に対する憎悪や嫌悪を並び立てる事も無く。後悔したくない、笑いたい、子供に戻りたいと言って泣いたの。身も心も深く傷付けられ、人間社会に捨てられて……それでも「人」を求めていたあの子に、こんな……人殺しと変わらない、汚い仕事を押し付けてっ……! 逃げようが無い、領主後継者の枠に縛り付けて! 現状の何処に、あの子の幸せがあるって言うのよッ!? 私は……! 私は、他人の傷を見て自分の心臓を止めてしまう優しい娘に、両手を赤く染めて万民に誇れとは言えない……! 決して! 言いたくなかった!!」
領主は盾、騎士は剣。施政者達はいつ如何なる瞬間も、略奪を図り襲い来る敵達と戦っている。清廉潔白な政治など、まやかしだ。人の前に、上に立つ者は、多かれ少なかれ必ず誰かの血と罵声を浴びる。護る為と言えば聞こえは良いが、やってる事は結局、自身にとって邪魔な者を斬り棄てる利己主義者達と全く同じ。笑いたいと願った幼い子供をそんな世界に引き擦り込んでおいて、これからは何の気兼ねも要らない。ずっと一緒だね……などと、能天気に喜べる訳がない。
だから躊躇っていたのだ。ハウィスが指輪を受け取れば、ミートリッテには逃げ場が無くなる。新たな貴族、領主の後継者とい
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