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気が引いて、真っ白になっていたので驚かされる父。
「どうしたんだ? また……」
本人の前では、とてもその状態を口に出しては言えなかった。
「祐一がいなかったら、すぐに戻るみたいね」
これも祐一を返さないための芝居の一つだったが、父親は簡単に策にはまった。
「そんな?」
祐一からは栞との約束を守ると言われたので、香里には諦めるように言うつもりだったが、そんな宣告をすれば、娘が生きる力を失ってしまいそうで、何も言えなくなった。
「美坂さん、突然お邪魔して申し訳ありません。先ほどお嬢さんから、お電話を頂いた時は正直驚きました、まさかお姉さんまで発病されるとは」
「ほら、お見舞いまで頂きましたよ」
見舞い用の菓子折りを見せて、夫の機嫌が悪くならないよう説明する。
「あなた方は確か、栞の取材だけ来て頂くはずだったのでは?」
母の予想通り、取材班が持っていたカメラを見て、病気の娘が見世物にされるように思えて、不快になる父。
「あたしが頼んだのよ、死ぬんだったら、テレビぐらい出てもいいでしょ?」
「馬鹿もんっ!」
また娘の言葉で泣きそうになり、大きな声で怒鳴りつける。
「主治医の先生にもお伺いしたんですが、今日の状態から見ても、「妹さんより回復は早いかも知れない」と言っておられました。ですから、お嬢さんが回復されるまで、取材させて頂きたいのですが」
回復まで、と言う言葉に心を揺さぶられ、迷っている父。
「放送させて頂ければ、全国から励ましのお便りを頂いたり、それが励みになって良くなる方もいらっしゃいますし、同じ病気で悩んでおられる方の励みにもなります、是非お願いします」
これも功名心からではなく、事実、カメラや撮影の予定があるために、気が張って持ち直す患者も多かった。
「あの、ちょっと撮ってもらえませんか? 面白い物をお見せできると思います」
父が迷っている間に香里が口を開いた。
「宜しいでしょうか?」
「どうぞ、娘のしたいようにしてやって下さい」
ついに折れて、香里の策にはまる父。
「はい、それでは。照明いいか? 音は?」
「祐一、手を握って」
「え? ああ」
もっと激しい要求かと思ったが、手を握る程度なら構わないと思って罠にはまる祐一。
「「「「「あっ!」」」」」
それから1分も経たない間に、真っ白な顔色をしていた香里は、元通り血色が良くなって行った。
(やっぱり、お前の体の構造って、どうなってるんだ?)
それを聞かれそうなのは祐一だったが、せっかく「やくそう」で回復した体力が、吸い取られるような感じもした。
「何だか熱い、汗が出てきたわ」
そう言って、顔や手に付けていたベビーパウダーも、汗と一緒にタオルで拭い取る。
(こっちは目まいがして来たぞ)
サッキュバスの人
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