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第一章
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                          蛟
 蛟は毎日湖の奥底で。こう魚や亀達に言っていました。
「何時かなれるのかな」
「龍にだよね」
「それにだよね」
「そうだよ。僕は龍になれるのかな」
 不安に満ちた顔で、です。蛟は湖の中にいる皆に尋ねるのです。
「果たしてね。どうなのかな」
「ううん。蛟って龍になれるよね」
「確かそうだよね」
「そうだよ。なれるよ」
 それはその通りだとです。蛟も皆に答えます。
 湖の底はとても奇麗です。水草がゆらゆらと揺れていて石や岩が自然に奇麗に整えられて置かれています。その湖の底に大きな身体を置いてです。
 蛟はキラキラと輝く水面を見上げながら。皆に言います。
「何時かはね」
「じゃあそんなに不安にならなくてもいいんじゃないの?」
「そうだよね」
 湖の皆はこう蛟に答えます。
「けれど何でそんなに不安なの?」
「何時かなれるのに」
「それでもそんなに不安になるのはどうしてなのかな」
「それがわからないけれど」
「確かなことじゃないからだよ」
 それでだとです。蛟は不安な顔で答えるのです。
「だからね」
「それでなんだ」
「不安なんだ」
「そうだよ。僕は本当に龍になれるのかな」
 不安な顔のままで。蛟はまだ言いました。
「凄く不安だよ」
「ううん、じゃあさ」
「滝で亀の長老さんに聞いてみたら?」
「湖につながってるその川を上ってね」
「それで滝まで行って聞いてみたら?」
「そうしたら?」
「そうだね。そうしようかな」
 蛟も湖の皆の言葉を聞いてです。そのうえで、です。
 湖から川に入ってそこからです。滝に来ました。そして滝の底にいる亀の長老に尋ねたのでした。蛟が本当に龍になれるのか。そのことにです。
 長老は滝の底の岩の上にいました。そしてそこからです。蛟に答えました。
「なれるぞ」
「なれるんですか?」
「うむ、絶対になれる」
 そうだとです。笑顔になった蛟にです。長老は答えます。
「蛟はのう」
「そうなんですか。絶対になれるんですか」
「ただしじゃ」
 龍に絶対になれると言われて飛び上がらんばかりになった蛟にです。長老はです。こうも言ってきました。
「それには五百年かかる」
「五百年ですか?」
「そうじゃ。五百年かかるのじゃ」 
 時間はです。そこまでだというのです。
「かかるのじゃ」
「五百年も、ですか」
「蛟はそれだけ生きると龍になる」
「そうなんですか」
「そうして龍になれるのじゃ」
「じゃあ何をしても五百年の間は」
「龍にはなれん」
 このこともです。長老は蛟に言いました。

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