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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 38
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 ミートリッテの絶叫と落涙を、幼い自分が冷めた声でひたすら責める。
 何もかもミートリッテ自身のせいじゃないかと、嘲笑う。

「ねえミートリッテ。大切な人達を犠牲にしてまで生きて何が楽しいの? 何が嬉しいの? 私はもう嫌だよ。奪うばかり失くすばかりのこんな世界、生まれたくなかった! 生まれてこなければ良かった??」

 奪い、犯し、壊し、棄てて、嘲笑う。
 降り積もる砂塵の如き冷酷な悪意に囲まれながらも寄り添ってくれていた優しい人達に、返せるものが(あだ)しかないと言うのなら。
 こんな世界。
 こんな自分。

「もういらない! 全部全部全部全部! 消えちゃええええ────っ??」

(違う! 私は!)

 咄嗟に顔を上げ。
 何を言い返そうとしたのか、ミートリッテ自身にも解らない。
 でも、言わなければダメだと思った。

(私は……っ)

 自分に伝えなきゃいけない言葉がある。
 どこかで誰かに聴いた、物凄く大切な言葉が。
 その内容を思い出す前に、小さな自分へと腕を伸ばし……

「恩を返すべき人達はもうどこにも居ない。だったら終わらせましょうよ。無駄に生き続けることこそ、ハウィス達への冒涜なのよ。そうでしょう? ミートリッテ」

 振り返った虚ろな瞳を捉えた瞬間、体が硬直する。
 蛇に見込まれたカエルのように、動けない。

(……やめて!)

 幼い自分の両手が、ミートリッテの首に絡みつく。
 二本の親指が脈打つ場所を的確に押さえ、圧迫する。

「苦しい? だよね。多分みんなも、殺される瞬間は同じ気持ちだったよ。怖くて苦しくて、痛くて混乱して助けて欲しくて、私なんかに関わらなきゃ良かったって、後悔して恨んで、憎んだ。なのに、自分だけは楽に生きて、楽に死ねると思うの? 甘いなあ。この期に及んで夢見すぎだよ」

(違っ……、そうじゃない! 私は!)

「言い訳は要らないの。せいぜいもがき苦しんで。永遠にバイバイ、私」

(やめ……!)

 喉の奥が鋭い痛みを訴えた。
 子供のものとは思えない力で気管を塞がれ、空気を求める肺が暴れ出す。
 唇の端に唾液が溢れ落ち、覗いてる幼い自分の顔が二重三重にブレて。
 赤く穢れた世界が、真っ黒に染まっていく。

(……だ、め……)

 これじゃダメだ。
 私は知ってる。
 ちゃんと聴いていた筈だ。
 思い出せ!
 私が自覚してなきゃいけなかったことを!

(わた、し……は……っ)


『ミートリッテ』


 ……声が、聴こえる。
 両肩に柔らかな熱が灯る。
 優しくて温かい、あの人の声と感触。
 大切で、大事で、大好きな……お母さん。

(……そう、だ……。私は……っ!)

 唇
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