Side Story
少女怪盗と仮面の神父 38
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赤だ。
限りなく黒に近い濁った赤色が、世界のすべてを侵食していく。
空は厚く錆びた雲に黒い雨を降らせ。
流れる水も留まる水も、常ならぬ饐えた臭いを放ち。
痩せ衰えた草花や枯れ木は、二度と動かない残骸達の寝台となっている。
湿気を多分に含んだ生温い風は新しい種の運搬を拒み。
今ある命を根絶やしにしようと、彼方を目指して重く吹き抜けた。
そんな中でも、音がする。
磨かれた金属同士がぶつかり合い、火花を散らしながら擦れる音。
生物が生物を威嚇し、罵倒する声。
肉を貫き、切り裂く音と、熱通う液体が汚れた大地にしぶく音。
死界へ放り込まれる者達の悲鳴と、送り届けた者達による狂喜の雄叫び。
手足代わりに使い捨てられる馬や鳥達の、勇ましくも悲愴な啼き声。
それから……
「遭難しちゃえば良かったね」
頭の天辺から素足の指先まで、傷やら泥やら血液やらで汚れた十歳前後のミートリッテが、膝を落として力無く座り込んでる十八歳のミートリッテの数歩手前で背中を向けて立ち、空を仰ぎながら呟いた。
「尖った岩の上とかに、頭から落ちちゃえば良かった。底無し沼に沈んで、そのまま膝を抱えていれば良かったんだ。特に意味も目的もなかったのに、どうして国境を越えてきちゃったのかな、私」
（……どうして）
「違うか。それより前だ。家を追い出された時、雨に打たれ続けただけでも重病を患えたんじゃないかな？ 町の人達は私が大嫌いだから。息が止まる瞬間まで唾を吐いて蹴り飛ばして、笑いながら見殺しにしてくれたよ」
（どうして……どうしてっ！）
「いっそ、お父さんとお母さんが死んだ時に、自分で首を吊っておけば」
（やめて?? どうしてそんなこと言うの??）
「だって、みんな死んじゃったんだもん」
ゆっくりと持ち上げられた細く短い右腕が。
地面と平行になる位置で人差し指を伸ばし、ヒタリと真横を指し示す。
欠けて赤黒く濡れた小さな爪の先を辿り、荒れた平原の向こうを見ると。
雲を冠と戴く、巨大な三角形の黒い影を見つけた。
（…………山？）
天へと細く延びるなだらかな斜面をよくよく観察してみれば。
一見つるっとした表層が、実は丸っぽい凸凹だと判る。
見渡す範囲の木々はことごとく枯れ、枝に葉を残す生気も感じられない。
荒廃した平原の近くにある山が森を豊かに繁らせているとは考えられず。
ではあれは、密集した枝先か？ と首を傾げ……
（…………────っ！）
不意に正体を悟り。
引き攣った喉が短く鳴いた。
「みんな、死んじゃったの。優しくしてくれたネアウィック村のみんなも、物凄く身勝手な我がままに応えて仕
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