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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
63.彼岸ノ海
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ったし黒竜に殺されかけて意識が飛んだ時もそうだった。俺は何度か短い覚醒を繰り返し、その中で現実世界に意識を送っていたのだ。しかしそれも、あの様子では持つまい。さっきも言ったがあれで生きている方がおかしいのだ。もうじき死ぬ。

「甲斐のない人生って、こういうもんなんだなぁ……ッ」

 もう一度幻影の世界に溺れるも良し。現実と向き合い、現実に潰されるも良し。
 どちらにしろ、俺の前に広がるのは虚しさだけだ。選択など馬鹿げている。
 もう考えるのも苦しむのも億劫だ。選択しなければ、ずっとここにいられる。
 未練(ゆめ)苦痛(げんじつ)も放り出し、一生この狭間にいるのがいい。

 なんと素晴らしい。死ぬより更に楽な道じゃあないか。
 それともこれこそが『死』という事か。
 なるほど――安楽にして甘美なり。

(元より、おれはそういう存在。自分がいなくなってしまえばいいと思ってたんだ。丁度いい塩梅だろ……)

 誰かの声が聞こえた。何人かの声が耳に響いた。子供の声?男の声?混ざり合った音は雑音のようであり、俺は煩わしさからそれに耳を貸さず静かに脱力した。力が抜けていくこの一瞬一瞬から生きる意志が剥がれ落ち、今が『そう』なのだと強く感じる。

Komm, s?sser Tod(甘き死よ、来たれ)――」

 足元に押し寄せるさざ波が心地よく、俺と言う存在を無へと溶かしていく。

 今この瞬間こそが、正に一線を越える刻。
 
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