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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
63.彼岸ノ海
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で後は普通の父親と母親を持って、平成という時代に日本で生まれた。名前の由来は『歓迎すべき来訪者』……だったか?好き放題するガキだったが、小学校に上ってからは周囲に歩幅を合わせることを覚えて、中学には周囲に迎合することを覚えて……高校じゃあ、自分と言う存在を殺す事を覚えた」
「まるで周囲が何もかも嫌いになったような物言いをするのだな」
「嫌いだったさ。そう、周囲も俺も何もかも嫌いだった。嫌いな周囲を形作る世界も嫌いだった」
「破滅主義だな。或いは唯の駄々っ子か?」
「知るかよ、と言いたいけど……たぶん、俺はどこまで行っても駄々っ子なんだろうよ」

 オラリオでは、自分のやりたいことしかやってこなかった。あらゆるしがらみを無視した。無視することのできる、都合の良い世界と環境だった。まるで現実の嫌なこと全てから目を逸らすように、ああそうだ。俺はあの世界に没頭し、あそこに骨を埋める気でいたに違いない。

 現実にはそんなにも都合の良い場所は存在せず、目を覚ませばまた嫌味なまでに抗いがたい現実が待っていて、俺はその中に埋もれながら心の中に呪詛を、心の外に世辞と気遣いを吐き出して生きていくのだろうと知っていた。

 そうか、そうなのか。

 俺はあの世界が大嫌いで、もしかして逃げ出したかったのか。

「アズライールは、死にかけの馬鹿が死の寸前に垣間見た胡蝶の夢か。そして死にかけでもがいているのが現実の俺で、ここはその狭間だ。違うかよ」
「お前が決めることを俺に求めるな。お前がそれでよいのなら、それでよい」
「ハッ………ばっかじゃねえの」

 感情がごちゃ混ぜになって、何を考えて何をしたらいいのか訳が分からなくなって、俺はその場に倒れ込むように仰向けになった。そして、『死望忌願』を初めて見たときのことを思い出し、呻いた。両足が千切れて片目が抉られた痛々しい姿。あれは、俺の現実の姿であり、俺に忍び寄る『死』そのものだったのだ。

「ばっかじゃねえの」

 あいつは「楽になろう」と言ったではないか。
 苦しみやしがらみから解放されようとのたまったではないか。
 死んでいるのなら確認を取る必要はない。ならば、俺は死んでいなかったのだ。
 死と生の狭間で、俺は生きる事を選んだ。都合の良い未来を願った。
 それにあれは、いつまでも付き合うと言ったのだ。

「俺の妄想に延々と付き合いますってか?マジで冗談キツイぜ………」

 意識が一つに統合されていくのを感じた。

 視界の先、俺の直上に『贖罪十字(グラーエイツ)』が見え、俺は乾いた笑い声を漏らした。
 あの十字架め、こんなところまで俺を追いかけてきやがった。
 それももう、滑稽としか思えない。あんな紛い者の無敵など。

 そうだ、前に己の死を探ったときもそうだ
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