63.彼岸ノ海
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を穿つは無頼の刃。
人が喰らうか、獣が喰らうか。それとも喰らったそれが真の獣なのか。
魔王と神の代理戦争、力と力の生存競争、『あちら』と『こちら』の綱引合戦。
今この瞬間こそが、正に一線を越える刻。
= =
何かが幾重にも重なり、擦れるような音が聞こえて、俺は眼を開けた。
そこは溶岩に包まれた巨大な洞窟の中/コンクリートが罅割れた埃臭く陰気な部屋/光のようにまっさらな砂と海が広がる青天井の下/だった。
「あれ……これ、どこだ?」
目を凝らすとそこはどこか見慣れた貧民街の家のようでもあり、人々が闊歩する町中のようでもあり、そっけなく飾りっ気もない自分の家のようでもある。あらゆるものがあり、あらゆるものがなく、ただ曖昧な幻が幾重にも重なって逆に見分けがつかなくなり、結局その光景は光のようにまっさらな砂と海が広がる青天井の下に収束された。
立ち上がる。体が立ち上がった。
立ち上がる。よろけて砂上に落ちた。
立ち上がる。体は動かなかった。
気が付くと俺は三人になっていた。
いいや、俺は最初に立ち上がったのだから立っている筈だろう。
そう考え直すと、俺が二人減って立っている俺だけになった。
なんとはなしに、そういう意識が大事なのかと考える。
周囲を見渡すと、底には誰もおらず、何もなかった。
暗闇に落ちたときもオラリオに辿り着いた時にも俺には先達がいたが、いないのだろうか。いるような気もするし、いないような気もする。
ふと自分の体を見てみると、体が三重に見えた。
まっさらな俺、体が欠損した俺、黒い外套を纏い黒竜の猛攻を防いだ俺。
どれが俺なのだろう。
「いや――」
そもそも、黒竜と戦った俺は本当に現実の俺だったのか?
それとも死にたく思うほどの苦しみの中で女の子に介抱された俺が俺なのか?
或いは、この何もない海の真ん中で呆けている俺が俺なのだろうか?
分裂する俺をさっきのように一つに纏めようと思い、纏まらずにそのまま立ち竦む。
「それはそうだろうな。そも、人間に『本当の自分』などという都合の良い人格は存在しない。何故ならば、1秒前の自分は今の自分とは異なるのだから」
後ろを見る。誰もいない。周囲を見回すが、人物らしき人物は俺以外に見当たらない。
という事は――ああ、なんとなく理解できてきたかもしれない。
「『本当の自分がない』って、何だよ?今こうして喋っている俺が俺ではないってか?人間は意識を連続させて自分を形作るものだろう」
「そうでもあるが、そうではない。根幹の意識は一つのトリガーで如何様にも変貌しうるものだ。未来に今の自分の思考がそのままである保証はある
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