63.彼岸ノ海
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感を『かっこいい』と思った。
縛られることなく、どこまでも思いのままに。
家族同然のファミリアたちのお節介が嫌いな訳ではないが、だからこそ時々周囲を微温湯に感じる瞬間がある。自分の意志を他人に曲げられている感覚が、僅かだが確かにある。
そんな子供の心にとってアズの存在は眩しく、そして柔らかかった。
そんな彼が死のうとしていると聞いても、アイズには何故かそんな気がしない。
いつもにへら、と笑う彼のことだから、また目を覚まして笑いかけてくれる。
根拠もない一方的な願いでしかない。それでも、アズなら「しょうがないな」と笑って答えてくれる気がした。
「早く戻ってきてね、アズ」
アイズは彼の温度がない額をそっと指で撫で、再び繭となった黒竜に向き合った。
何時かは分からないが、その瞬間は確実に迫っている。
それを乗り切れなければ、アズは眠るための体さえ失くしてしまう。
(アズもそれは困るよね。「居眠りしてる間に体がなくなっちゃったよ。どうしよう?」とか言うのかな?)
――それから、どれだけの時間が経っただろう。
時折リージュの魔法の継ぎ足しの詠唱が聞こえるのと、溶岩が深紅の泡を弾けさせる事を除いて動きがない溶岩の中心はまるで時が止まったかのように静かな空間。
その空間の中で、僅かな動きがあった。
「――あと一発で打ち止めだ。『剣姫』、こちらに」
「……うん」
リージュの声に事情を察したアイズが前に出る。
『コクリュー、動くかな?』
「動くな。それも確実に」
それまで目を瞑っていたオッタルが立ち上がり、大剣を持ち上げた。
「流石に焦れてきたらしい。それとも限界が近いからか、先ほどから苛立たし気な焦燥の吐息が空間を伝播している」
「――判るのか?」
「本能のようなものだがな。あちらがこうも追い詰められていなければ悟ることも難しかっただろう」
矢張りレベル7に至った人間は、『どこか人間ではない』。獣の本能か、戦士の本能か、こういうところはオーネストと同じだ。彼の言葉が含む重みが、その言葉を信頼に足るものであると否応なしに実感させられる。
「作戦通りに行くぞ。準備はいいな」
「口を慎め猪が。誰に物を言っている?作戦を通すのは私の仕事よ」
「迷宮に足を踏み入れた時から、当の昔に覚悟など出来ているから……」
『あず殿とおーねすと殿を守り切れているうちに、お願い申す』
『みんなで帰ろう?大丈夫、オーネストの作戦だよ!』
(歯痒いが、今は奴らに期待するより他になし。だが――悲観するには少々贅沢な戦力かな)
今にも沈む岩船の、船頭に立つは三人と二つ。
何れも万夫を退け幾千の勝利を重ねる闘士なり。
最大戦力は動くこと叶わず、黒き牙
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