63.彼岸ノ海
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いたが、オーネストは作業しながら喋る余裕は辛うじてあるらしい。
「今、アズの体から『情報』が抜け落ちかけている」
「情報?」
「魂でもあり、肉体でもある。アズライール・チェンバレットという男を構成する情報――存在そのもの。恐らく魂が抜けた瞬間、この世界からアズライールという男は骨も残らず完全消滅するだろう」
「それは、死ぬってこと?」
「少し違う。こちらではそうだが、あちらでは――いや、これは憶測だな。正直、アズがどういう状況にあるのかは俺にも正確に把握しかねる」
意味が分からないが、どうやらオーネストにも分からないことはあるようだ。ただ、話を統括するに、アズの現状は医者にどうこうできる類の問題を逸脱しているという事らしい。
「アズは『もともとここにはいなかった存在』だ。それが『死望忌願』を引き連れてこちらに来たのはきっとアズが特別なのではなく、この世界が脆いのだろう。奴は隣の部屋とこちらの部屋に空いた風穴で、『混ぜてはいけないもの』が溢れ出ることを図らずしも止めている」
「………??」
「だが、きっと『弁そのものは向こう側に開く』から、アズが『いなくなる』のなら弁は自然と閉じる。そこから引き戻すには閉じきっていない今を於いて他にない………しかし、今の俺では『壁』を越えられないし、何より時間が足りない。弁の隙間から呼ぶしかない。後は、奴次第だ」
「………???」
「要するにだ。やることはやっている。後は寝坊助野郎が帰ってくるか、そのまま永遠の眠りにつくかの二つに一つって訳だ」
「なるほど、分かった。要するに峠を越えるかどうかってこと……合ってる?」
(………しまった、最初からそう説明すればよかったか。俺も少し焦っているのかもしれんな)
ロキやリヴェリアならこの話の半分でも理解できたのだろうか――少なくともアイズにはそう解釈するのが精いっぱいだった。しかしそう分かってしまえば事実はシンプルだった。
血の気のない顔で眠るように意識を落とすアズの顔を見る。
アズとは特別親しいわけではないが、アイズは少しだけアズに憧れていた。
アズはなんというか――そう、身近な大人像だった。
アズは自分のようにファミリアの先輩や主神に口出しをされることもすることもなく、好きや気まぐれで他人に付いて行ったかと思えば一人でも行動し、誰を妄信することもなければ己に陶酔することもなく自由気ままにフラフラしている。
それでいて、戦いでは圧倒的に強い。周囲にはあまり言っていないが、アズの『死神の如く』と謳われる異次元の強さ――無傷で周囲を圧倒し、他人をも助ける余裕がある強さには羨望を抱くことがある。レフィーヤなんかはよくアズのことを怖がっているが、アイズはむしろ物語の一幕のように場を支配するアズの威圧
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