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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十四話 死者の代償
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などと言っている。俺も笑った、声を上げて。

あの男が和平など受け入れるはずが無い。宇宙を統一しフェザーンに遷都する、新銀河帝国の創立。その夢のために門閥貴族達を潰した、ローエングラム伯も切り捨てた……。その事実の重みを同盟は、ペイワードは理解していない。それとも理解しているのか、理解した上で足掻いているのか……。

「五年遅かった、和平を結ばせるなら最低でも五年前に行うべきだったのだ」
俺の言葉にルパートが黙り込んだ。父親の事を考えたのかもしれない。ルビンスキーが自治領主になったのが帝国歴四百八十二年、五年前ならルビンスキーが自治領主だった。責められているとでも思ったか……。

五年前ならヴァレンシュタインは未だ軍内部で大きな影響力を持っていなかった。そこで和平を結んでおけば彼はごく普通の有能な士官で終わっていただろう。
「五年前なら和平を結ぶ事は出来たでしょうか」
「難しいだろうな」

俺の答えにルパートが小首を傾げ少し考え込むような仕草をしてから問いかけてきた。眼にはこちらを試す様な光が有る。
「不可能ではなく?」

「対等の立場での和平というのは不可能だろう、帝国が認めるとは思えない。可能性が有るとすれば服従という形での和平だ」
「服従ですか……」
ルパートの声には訝しげな響きが有った、納得はしていない。

「帝国を認め、帝国の宗主権を認める形での和平だな。戦争を止めるのではなく反乱を止める、それなら可能性は有っただろう」
帝国は宗主権を認めさせる代わりに同盟に対しては自治を与える。フェザーンと同じだ、形は自治領でも中身は独立国と言って良い。

「同盟を屈服させる見込みは無かった。そして長い戦争で帝国は疲弊していた。軍の力が増し、貴族達の力が強くなっていた……。相対的に政府の統治力が弱まった事にリヒテンラーデ侯は懸念を持っていたはずだ」

そんな時、同盟が服従を申し出てきたら……。形だけとはいえ、帝国は銀河を統一した事になる。リヒテンラーデ侯が帝国を立て直すために和平を受け入れた可能性は僅かかもしれないが有っただろう。

「しかし、同盟がそれを受け入れられるでしょうか。私にはとても受け入れられるとは思えませが」
「補佐官の言うとおり、まず無理だろうな。最高評議会議長が三人ぐらい殺される覚悟はいる。それでも結べるかどうか……」
「三人ですか……」
「五人かな?」

唖然とするルパートの顔が面白かった。なるほどルビンスキーが俺を相手に話をしたはずだ。あれで随分と鍛えられた。今俺がルパートを鍛えているのは或る意味恩返しなのかもしれない。そう思うと思わず笑い声が出た。

「本気で和平を結ぶなら百年は遅かっただろう」
「百年、ですか……」
「そうだ、百年前なら和平を結ぶのはもっと簡単だったはず
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