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相模英二幻想事件簿
File.2 「見えない古文書」
[ 同日.PM.5:46
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- 熱い!水をくれぇ!焼ける…熱い!ここから出してくれぇ! -

「どうやら…斬られた上に焼かれた様だな…。相模君、あれ。」
 櫪氏に促されるままに視線を向けると…そこには、人の形をして人でないものがいた。それを見た時、不意にツンとくる異臭が鼻をついた。きな臭い中に死臭が混じっているようだ…。そしてその中に…頭一つ小さな影があった。
「あれは…!?」
 その影は…私が館の中で見た少年だった。少年…とは言っても、それは目が空洞の骸骨にしか見えないものだ。だが、その少年だけは他とは違い、焼けている風ではなかった。何と言うか…餓死した人間の様な感じがしたのだ。

- 嘘つき…好きって言ったのに…ずっと一緒だって…言ったのに…。僕だけを…愛してるって…言っていたくせに…! -

 その霊は、自らの怒りを言葉にしていた。それは他の霊よりも強く、周囲にある霊達の言葉さえ打ち消してしまう程大きかった。「こりゃまずい…。」
 櫪氏はそう呟くや懐から札だして言った。
「清らかなる者よ、このひととき、汝の力持て我等を守りたまえ!」
 そう言い切ると札を空へ投げ、「相模君、走るよ!」と言って走り出した。
 私達は一気に如月家の陥没した穴の真下へと来た。そして、そこにあった縄梯子から上へと出たのだった。その縄梯子は、恐らくレスキューが来た時に付けたものだ。
 櫪氏は初めから分かっていたのだろう。ここが如月家の地下空洞へ続いていることも、こうして私達が霊に遭遇することも…。全て計算されていたんだな…。
「さて…相模君。この屋敷にいる全ての人に、この屋敷から出るよう伝えてくれ。」
「出るって…それじゃ、どこに行けば?」
「刑部の家だ。ここは私が結界を張るから、直ぐに出るように。取り殺されるよりマシだろうからな…。」
 私はそれ以上聞かなかった。地下であんなものを見た上に「取り殺されるよりマシだ」と言われれば、彼の言葉を否定することなんて出来ない…。
 かくして、私は館にいた使用人達を外へと出した。外は既に闇に包まれ、ささやかな月明かりが大地を照らし出していた。だが…追い立てる様に表へと出した私に、意見するものや文句を言うものはいなかった。皆が知っているのだ…ここには何かあるのだと。
 暫くすると櫪氏も館から出てきたため、私達は刑部家へと向かった。
 ふと、何気無く振り返って見た如月家は、全ての灯りが消えた…まるで廃墟に見えた…。私はそこへ、目には見えない、得体の知れない何かが蠢くのを感じ、直ぐ様目をそむけ、足早に歩き始めたのだった…。




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