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相模英二幻想事件簿
File.2 「見えない古文書」
T 同日 PM7:45
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て戸棚へと歩いた。良く見れば、戸棚の中にはCDぎっしりと並び、横のテーブルにはオーボエが置いてあった。備え付けの棚には楽譜や音楽関係の本が詰め込まれている。
「音楽を遣られてるんですか?」
 私がそう尋ねると、七海さんは幾分顔を綻ばせて「オーボエを少し。」と答え、戸棚から取り出したCDをプレイヤーへと入れた。
「相模様は、藤崎京之介と言う音楽家をご存知ですか?」
 急に問われ、私は面食らってしまった。奴め…こんなとこにまで名が知られてるなんて…。何だか羨ま…いや、悔しいじゃないか!
「知ってるも何も…友人ですよ。」
 私が苦笑混じりに答えると、七海さんだけでなく、如月夫人も使用人達も目を丸くしてしまった。
「まぁ…!そうだったのですか!?では、演奏もお聴きになったことが?」
「ええ。主に大学でのオルガン演奏ですが。時には演奏会のチケットを送ってくるんですが、仕事柄なかなか行けなくて…。」
「羨ましい限りですわねぇ…。」
 七海さんは溜め息を洩らした。それも七海さんだけでなく、周囲もまた同じ反応をしたのだった。
 京のやつ…どんだけ有名になってんだ…?
 私は何となく…そう、何となく…藤崎に嫉妬してしまったのだった。
 ま、七海さんも落ち着きを取り戻したみたいだし、これはこれでいいか。
 そうしている内に、米沢さんが七海さんへと飲み物を持ってきてくれた。
「お嬢様、ココアを作って参りましたよ。」
「有り難う、春さん。」
 米沢さんの名前は春代だ。七海さんは春さんと呼んでいるようだな…。
「七海。もう大丈夫なようね?」
 七海さんがココアに口をつけた時、如月夫人は微笑みながら言った。その言葉に、七海さんは「はい。皆様のお陰で。」と言って答えたため、夫人はその場を解散させたのだった。
「それでは、僕も部屋と戻ります。何かありましたら、いつでも呼んで下さい。」
 私がそう言うと、七海さんは「有り難うございました。」と言って会釈し、母親である夫人には「母さん、もう平気だから。」と言って苦笑を浮かべていた。そんな親子に挨拶し、私はその場から退いた。
 だが…七海さんが見たものとは、一体なんだったのだろう?夢現で見た幻影?しかし、あれくらいの歳になって、夢であれだけの恐怖を見せるだろうか?これが夫人の言っていた<奇妙なこと>なんだろうか?

 だが、本当の恐怖を知るのは、まだ少し先の話しだ…。




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