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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十二話 器と才
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イゼルローン要塞司令官を命じられたのだから六年ほどはオーディンを離れていた事になる。当たり前の事だが此処に来るのも六年ぶりか、相変わらずそっけない廊下だ。帝国が日々変わりつつあるのにそれをもたらした宇宙艦隊司令部の廊下はなんの変わりもない……。

捕虜交換が行われてから約二ヵ月が過ぎた。私がオーディンに戻ったのが二月の五日、帰還直後に軍務尚書より自宅療養を命じられ二月二十日に宇宙艦隊司令部への出頭を命じられた。

あの時の事は今でも覚えている。上級大将に昇進すると言われ、とても受ける事は出来ないと固辞した。しかし“捕虜帰還者は全員一階級昇進する事になっている。卿がそれを辞退すれば他の者も受け辛かろう”と言われ固辞しきれなかった。

約二年に及ぶ捕虜生活は確かに私の心身を蝕んでいたのだろう。日々イゼルローン要塞を守り切れなかった事を自責し、その事で周囲の目を、非難を怖れた。自分が要塞を守りきればゼークトは死なずに済んだ、三百万の帝国兵が死なずに済んだ。眠れない日々が続き何度も自殺を考えた……。

妻からは痩せたと言われ、娘からは白髪が増えたと言われた。どちらも分かっている。つらい二年間だった。そして捕虜生活から解放された今、私の心はひたすらに休息を求めている。上級大将に昇進した事も重荷だった。出来ることなら今からでも固辞したい……。

イゼルローン要塞を守れなかった、その所為で大勢の人間が死んだ、ゼークト……。おそらく軍への復帰は無理だろう。或いは閑職に回されるのかもしれないが、むしろ退役を望んでいる自分が居る……。

約束の時間の十分前、少し早いかと思ったが来訪を告げると司令長官室への入室を許された。ドアを開けると騒々しいと言って良いほどの物音が私を驚かせる。引切り無しにかかってくるTV電話音と受け答えする女性下士官の声、書類をめくる音と忙しそうに歩く女性下士官の足音。なるほど、噂には聞いていたがなんとも形容しがたい雰囲気だ。戦闘中でも此処まで騒がしくは無いだろう。

気圧される様な気持で部屋を見ていると背の高い女性士官が近づいてきた。
「シュトックハウゼン閣下、小官は司令長官閣下の副官を務めるフィッツシモンズ大佐です。司令長官閣下はもうすぐ戻られますのでこちらでお待ち下さい」

彼女が指し示したのは執務机の傍に有る応接セットだった。礼を言ってソファーに座ると直ぐに女性下士官が笑顔でコーヒーを出してきた。ハテ、蔑みの目で見られるかと思ったのだが……

コーヒーを一口、二口飲んでいると司令長官室のドアが開いてヴァレンシュタイン司令長官が急ぎ足でこちらに近づいてきた。慌てて起立して敬礼をする、司令長官の答礼を待ってから礼を解いた。

「遅くなって申し訳ありません、待たせてしまったようですね」
「いえ、そのような事は有り
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