62.連ナル鎖
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ると、再び女の子が飲料水を飲ませてくる。喉の渇きは僅かに癒されたが、もう喉を動かす痛みを味あわされるのが嫌になって俺は途中で顔を背けた。女の子はそれに気づき、俺を再び寝かせた。
そこになって気付いたが、俺は段ボールと梱包材の上に寝かされているようだった。
同時に意識が薄れ、倦怠感を吸い取るように虚脱感が襲い来る。
意識が薄れるまでに数秒だったような気もするし、数分経ったような気もする。
「―――リンク………薬を砕い………沈痛――ばらく……――避難所まであと………」
涙目の少女がゆっくりと何かを説明している。
しかし、俺の耳には断片的にしか情報が届かない。
そんなことよりも、俺には不思議なことがあった。
先程からやけに距離感が掴みにくいせいか、俺の胸に手を置く人間が何重にも重なって見える。
声も段々とばらけ、男か女かも分からない声が幾重にも重なって聞こえるようになった。
聞き覚えのある声にだけ意識を集中させようとするが、頭が重くて集中できない。
意識が途切れる寸前に俺の耳に届いたのは、二つの声だった。
「絶対にあなたを死なせないから。私を助けたあなたを、一生賭けてでも守り抜いて見せるよ」
『絶対にお前を死なせんぞ。俺が生きろと言っているんだ、生きる以外に選択肢があると思うな』
俺は、「なんて身勝手な連中なんだ」と内心嘆息した。
死ぬことも許してくれないなんて、身勝手で残酷な人間たちだ。
= =
アイズ・ヴァレンシュタインという人間は運命に流されがちだ。
アイズは今日、オーネストが黒竜に挑むなど夢にも思わなかった。
助けに行く途中で『猛者』に会い、飛行能力があるからと同行するとも思わなかった。
移動しながら説明された中で黒竜がアイズの予想を完全に超えた怪物であると知った。
アズライールという男が自分の手の中で冷たくなっていく光景が信じられなかった。
周囲が溶岩に囲まれた状況は、ここで死ぬかもしれないと覚悟を決める程度には絶望的だ。
羽の生えた動く人形が自分の知る人間を切り裂く光景など、狙っても見られないだろう。
しかしそれ以上に驚愕したのが、目の前の光景だった。
オーネストは、血が噴出する自分の手のひらとアズの胸の傷を重ね、自らの血をアズの中に流し込んでいた。猟奇的な、常軌を逸した光景。アイズは、オーネストがアズを介錯しようとしているのではなかと疑った後に、オーネストがもう正気ではないのではないかと疑った。
オーネストは壊れている。それは疑うべくもない。
だが狂気の芯には絶対的な理性があり、妄信的ではない。
自らの血を分けて友人の魂を呼び戻すなどという悪魔信仰を信じる人間ではない
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