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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
62.連ナル鎖
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から微かな煙を出しながら上体を起こしてアズの様子を見ている。その眼は普段の温度がこもらない瞳と違って真剣そのものだ。
 心配そうに二人の様子を見るドナとウォノを尻目に、オーネストの表情がどこか悔しそうに歪んだ。

「………このままだと、死ぬな」
『オーネスト、カイフクポーションがイッポンだけあるんだけど、これじゃダメなの?』
「無理だ。アズに足りないのは血でも体力でもない、『魂』だ。彼岸を渡る魂を呼び戻すのに薬は通用しない」
「そんな……アズ、死んじゃうの!?」
「………こいつは三途の川の渡し賃を前払いしてるようなものだ。その時が来れば常人以上にあっさりと死ぬさ」
 
 もとよりアズライールとはそのような男だ。明日死ぬるも今日死ぬるも同じと考える輩だ。
 だが、オーネストはそれを防がねばならないと考えていた。
 固くたゆまぬ遺志で、この死に損ないをもう一度叩き起こしてやらねばならない。
 胸倉を掴んで一度張り倒し、襟首をつかんで屋敷に連れ帰ってやらねばならない。

 だって――あいつはこの戦いに、未来(あす)を賭けたのだから。
 その意識の為なら、もはやオーネストは何も躊躇わない。
 最善手を打ち、黒竜の攻撃から生き延びさせる。

「ドナ、アズが死ぬのは嫌か?」
『アタリマエじゃない!アズがいなくなるんでしょ……フツーのニンギョウみたいにうごかなくなって、ニンギョウとチガってカタチものこらずホシにカエっちゃんでしょ!?そんなの………そんなのヤダ!!』

 必死に訴えるドナの悲痛な叫びは、彼女の人形としての生死感が滲みだす。
 そこに込められた様々な意志、無常さはしかし、今のオーネストには重要ではない。
 ただ、アズを助けたいという意志があるのならばそれでいい。

「こいつを助ける方法が一つだけある。だが俺一人じゃ出来ないことだ。手伝ってくれるか?」
『ウン!アズがまたうごくんなら、なんでもするよ!!』
「アズの胸を血が噴き出す程度に切り裂け。そして俺の右掌も同様に切り裂いて、二つの傷口を重ねろ。後は俺が何とかする」
「!?」

 後ろでアイズがぎょっとしたのを感じたが、オーネストは敢えて無視した。
 説明する暇がないし、今を逃せばアズの魂は「どこか」からこちらに永遠に戻ってこれなくなるだろう。強行させてもらう。

『えっ……?そ、それで助かるの?うーん……』

 ドナは一瞬躊躇った。人間をむやみに傷つけてはいけないというヴェルトールの教えや、血を出すことは助けることの反対なのではないかといった人形である彼女にとっては些細な疑問が引っかかったからだ。
 しかしドナは思考能力的には無邪気な子供でしかなく、複雑な思考をしない。決断は早かった。

『わかった、オーネストをしんじるねっ!』

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