巻ノ七十一 危惧その八
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「近頃太閤様は毎日ここに来られてもすぐに」
「茶々様のところにですか」
「行かれて」
「お拾殿に会われています」
他ならぬ我が子にというのだ。
「ですから」
「奥方様からもですか」
「言うことは」
「その時がどうも」
言う前にというのだ。
「出来ません」
「では」
「それでは」
「茶々殿に私が話そうとしても」
この場合についてもだ、北政所は二人に話した。
「私は百姓の娘、あの方は浅井長政殿と」
「お市様のお子」
「だからですか」
「かつてとはいえ主家筋の方です」
市は信長の妹だ、北政所も信長には色々とよくしてもらった。夫婦喧嘩では彼女を立てて秀吉を窘めたこともある。
「ですから」
「ですか、では」
「北政所様からも」
「どうしても言えませぬ」
出来る様な間柄ではないというのだ。
「これが」
「何と厄介な」
「それでは」
「小竹殿がおられれば」
北政所も無念の顔で言った。
「この様なことはなかったのですが」
「全くです」
「あの方がおられれば」
「太閤様を止めてくれました」
「必ず」
「内府殿にお話をしましたか」
北政所は二人にこう尋ねた、家康にはというのだ。
「あの方には」
「はい、既に」
「そうしました」
「それであの方にもです」
「動いてもらっていますが」
「ならば大丈夫です」
家康ならばとだ、北政所は言った。
だがそれでもだ、北政所は心の中に不吉なものを感じそのうえで二人にこうも言った。
「ですが利休殿のことを思い出すのです」
「あの方の時」
「あの急な」
「太閤様のお動きは速いです」
「はい、非常に」
「そのことは」
「だからこそ」
正室として共に一介の足軽だった頃から共にいて糟糠も舐めてきた、北政所はこの経験から二人に話した。
「非常にお動きは速く」
「身動きも頭の回転も」
「どちらも」
「確かにあの方もお歳です」
それが為の衰えは隠せないというのだ、秀吉も。
「ですが」
「それでもですね」
「そのお動きの速さは衰えておられない」
「ご決断は早く」
「動かれることも」
「このことで天下に勝る者はいません」
それこそというのだ。
「内府殿、又左殿も」
「とてもですな」
「あの方のお動きには敵わない」
「そのお速さには」
「私も若い頃より驚くことが多かったです」
彼女自身もというのだ。
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