マスター現る!
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「わあ…」
フィオーレ王国東方、商業都市マグノリア。その街中。
右手で庇を作り、ルーシィは満面の笑みでそれを見上げていた。その隣で、何だかんだここまでついて来てくれたニアが「おお」と、珍しく素直に驚いたような声を上げる。
どん、と街の一角に構えられた、三階建てと思われる建物。高い位置に飾られた旗には妖精の紋章、両端に妖精のモチーフを飾った看板には、“FAIRY TAIL”の文字。
「大っきいね」
そう、ついに来たのだ。
ハルジオンの一件から逃げ切って、列車に乗って、あの港町で別れるはずだった彼も連れて。
「ようこそ、妖精の尻尾へ」
そう言って、ハッピーがぴょんと跳ねた。
マグノリア唯一の魔導士ギルド、それが妖精の尻尾だ。
その建物の中では、所属する魔導士達が談笑したり、酒を飲んだり食事をしたり、数名のグループで仕事を探したりと、それぞれが思い思いに過ごしている。揃いのワンピースを着た女性がお盆にジョッキや料理を持った皿を乗せてあちこち動き回る中で、ナイトキャップのような形をした帽子を被る男が、近くを通りかかったウエイトレスに声をかけた。
「ミラちゃーん!!こっちビール三つお願い!!」
「はいはーい」
声のする方に顔を向けて答えたのは、銀髪の女性だった。
前髪を縛り、ウェーブがかった腰ほどまでの髪を下ろした、ルーシィも読んでいた週刊ソーサラーでグラビアモデルを務めていた美女―――ミラジェーンは、注文された通りにビールを三つお盆に乗せ、テーブルへと向かっていく、と。
「ミラちゃ〜ん」
「はいはい、何かしら?」
軽く手を上げて呼び止める声。煙草を咥えたリーゼントの男だった。
その男が煙草をいったん離し、口を窄めてふうと息を吐く。ゆるりと吐き出された煙がゆっくり上り、まるで意思を持つかのようにくるりとハートマークを作り出す。
「今度オレとデートしてよぉ」
「あ!ズリィ、抜け駆けすんなよ」
ぽわん、と続けて二つ。お得意の煙魔法で作られた、ピンク色の三つのハートがミラへと向けられる。それに対しミラは困ったように笑う。このくらいはいつもの事だ。
「もぉ…」
だから、ミラの動きに迷いはなかった。
お盆を持っていない方、空いた左手を数度振る。
「あなた、奥さんいるでしょ?」
「どわ――っ!!うちの嫁なんかに変身するなよォ!!!」
ぽん、と音を立てるのと同時に、ミラの華奢な体が大きく膨らんだ。もこもことした髪に垂れた眉と目、大きめの鼻と口。ワインレッドのワンピースがはち切れそうだ。
彼の嫁姿のままにっこりと笑えば、即座に顔を背けられる。浮かぶ汗に半泣きの顔、情けない姿に周囲からは笑いが起こった
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