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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百三十四話 捕虜交換後(その2)
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フェ財務尚書の事かね』
「ええ」

ルドルフは度量衡の改定を行なおうとしている。自分自身の体重を一カイゼル・セントナー、身長を一カイゼル・ファーデンとして全ての単位の基準にしようとした。しかしその試みは阻止された。当時の財務尚書クレーフェが度量衡の改定に伴う費用を試算し、その巨額さにルドルフが断念したからだった。今でもルドルフの自己神聖化の具体例として挙げられ嘲笑されている話だ。

『ルドルフは試したのだよ、クレーフェをね』
「試した?」
試した? 予想外の言葉だ、思わず鸚鵡返しに反問するとトリューニヒト議長が可笑しそうに笑い声を上げた。

『クレーフェの試算は明らかに過大なものだった。ルドルフがそれに気付かなかったと思うかね?』
「……それは、気付かなかった可能性は有るでしょう。彼は元々軍人です。経済にそれほど詳しかったとも思えません」

正直こじつけに近いだろう。長期間に亘って国家を統治してきたのだ。全く分からなかったとも思えない。だがトリューニヒト議長は不愉快そうな表情は見せなかった。むしろ楽しげに話しかけてくる。

『なるほど、では彼の周囲はどうだろう、誰もそれに気付かなかったと君は思うかね』
「……」

『そんな事は有り得ない、誰かが気付いたはずだ。そしてルドルフにクレーフェが嘘を吐いていると言っただろう。もしルドルフが自己を神聖視していたのならクレーフェを許さなかったはずだ。彼は殺されていただろう』

「ではルドルフが試したというのは……」
『クレーフェが信用できる人物か、それともただの追従者か、それを確認したのだと私は思っている』

呆然とする私を見てトリューニヒトが楽しそうに笑い声を上げた。
『ヤン提督、私の推論は楽しめてもらえたかな?』
「あ、いえ、余りにも大胆な推論で」

『付いて行けないか。まあ無理も無い、政治とは結果でしかないからね。どのような意図の下に行なわれたかを省みるのは歴史家達だけだ。それも必ずしも好意的に見てもらえるとは限らない。厳しい事だ』
「……」

『これから同盟は厳しい状態に追い込まれる。当然我々に対する評価も厳しいものになるだろう。努力しても評価されない、不当に評価される、そんな事になるかもしれない……。逃げたいかね?』

「そういう気持はあります。しかし逃げられません」
『何故かな?』
「ヴァレンシュタイン元帥が言っていました。もう後戻りは出来ないと……。私も同じです、多くの人間を死なせました。逃げる事は出来ないんです」

私の言葉をトリューニヒトは黙って聞いていた。そして呟くように言葉を出した。
『私もだよ、ヤン提督。これまで主戦論を煽って大勢の人間を死地に追いやった。いまさら逃げる事は出来ない。流した血の量を無駄には出来ない……』


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