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提督はBarにいる。
提督VS木曾
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一瞬だけ瞬きをさせて視界を遮るには十分だった。刹那、迸る閃光とキイィン……という金属を叩いたような甲高い音。恐る恐る開けた木曾の目が捉えたのは、柄元から上が消失した愛刀と床に突き刺さる刃、そしてあの黒い刀身を抜き放った提督の姿だった。

 木曾が目を閉じる寸前から目を開けるまでの数秒間に何が起きたのか。斬り上げ気味に襲い来る白刃に対して、煙草を目眩ましに使おうと吹き付けた。狙ったのは木曾の顔面……と言っても、火傷をしないようにと眼帯をしている左目を狙うという配慮のある物だったが。火傷をする程の物でもないが、流石に火の点いた物体が顔面に飛んでくると身体が強張ってしまうというのは生物として当然の反応である。一瞬ともいえない程の僅かな硬直が、木曾の一撃を鈍らせた。

 その好機を逃すハズも無く、カウンター気味に提督が黒刀を抜刀。鞘の中で十二分に加速された刀身は、殆ど抵抗を感じさせる事もなく木曾の愛刀を斬り飛ばしたのだ。……それも、『折れず・曲がらず・よく切れる』と三拍子揃った日本刀をである。

「はい終了ォ〜。どうだ、少しは満足したかよ?」

 曲芸ともとれる『パフォーマンス』をやってのけた提督は、さも当然とでも言うようにニヤリと笑っている。

『どうやらこの人には生涯勝てそうもない』

 と悟った木曾は、諦めたように頭を振り、

「あぁ……完敗だ。こうまでナメた真似されて負けちゃあ、どうにもならねぇよ」

「ナメた真似?……あぁ、刀抜かなかった事か。当たり前だろ?仮にとは言え嫁さんになる女を、自分からキズモノにする男なんて居るか」

 何を当たり前の事を言ってんだ、といった感じで木曾の頭をクシャクシャと撫でてくる提督。

「あぁそうだ、お前に渡す物があるんだった。……明石!」

「はいはい、仕上がってますよ〜っと」

 道場に集っていた群集の中から明石を呼びつける提督。明石の手の中には、一振りの軍刀らしき刀が収まっている。

「ケッコン祝いに渡すつもりだったんだがな……お前の刀は俺がへし折っちまったし、まぁその代わりにでも使ってくれや」

木曾が手渡された軍刀を引き抜くと、その刀身は提督の刀と同じく漆黒だった。

「深海鋼の軍刀だ。少しは足しになるか?」

「……あぁ、最高のプレゼントだぜ。ありがとな、親父」

「お前なぁ、仮にもケッコンした相手を親父呼ばわりはねぇだろよ」

 提督の指摘に道場にいた艦娘達がドッと湧く。

「さぁて、動いたら腹へったな。朝飯行くぞ!」

 ぞろぞろと食堂に歩き出す艦娘達の中、右手に軍刀を押し抱き、左手に填められたシルバーのリングを嬉しそうに眺める木曾が目撃されたという。その後、木曾は研鑽を重ねて鎮守府屈指の剣士になるのだが、それは当分先の話である。
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