暁 〜小説投稿サイト〜
提督はBarにいる。
6月第3日曜日・12
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金剛はトマトのように赤くなってしまっている。

「鈴谷、からかうのはそれくらいに致しましょう」

「そだねー、馬に蹴られちゃ困るしね」

「……で?何しに来たんだお前らは」

 まぁ、2人が盆を持っている時点で何となく察してはいるが。

「いやぁ、折角だからアタシ達の作った料理を味わって貰おうと思ってね?」

「先程まで邪魔者がいらっしゃいましたので遠慮しておりましたの」

 チラリと別の方を見ると、最上と三隈が此方に手を振っていた。どうやら4人で作った力作らしい。

「じゃあ、いただこうかな。ちなみにメニューは?」

「『ハヤシライス』ですわ」

「金剛さんもよかったらどうぞ〜」

「Oh、じゃあいただきますネー!」

 盆から下ろされた皿から漂うその香りは正に、本格的な洋食屋のそれだ。俺が手抜きで作るよりも恐ろしく手間がかかっている。デミグラスもよく煮込まれて具材に染み込んでいるし、材料にもかなり拘りを持って作られている。スプーンを手に取り、ご飯とソースを適度に合わせて口の中へ。……うん、手間暇を惜しんで出せる味ではない。だが、惜しい。恐ろしく惜しい。

「なぁ、これを作る時に中心になったのは誰だ?」

「私ですわ。メインの牛肉には神戸牛を惜しみ無く使って高級感を出しましたの。それにデミグラスソースも……」

「あ〜、このハヤシライスにかなり手間がかかってるのは解る。解るんだがな……」

「どしたの提督?なんか奥歯に何か挟まったような言い種だけどさ」

「こういう場合、はっきりと物を言った方が良いのか、正直迷ってるんだ。俺を思っての料理だしな」

 このハヤシライスは美味い。間違いなく美味いのだが、使われている具材の割には『美味しくない』のだ。それでも高級な物を使っているだけあって、並のハヤシライスよりは美味い。……だが、それまでだ。

「……どこが、いけないと言うんですの?」

 震えるような声で、熊野が聞いてきた。

「たった1点だ、熊野。肉のチョイス……これが不味かった」

「何故ですの!?私が伝を頼って神戸牛を仕入れましたのに、なんで……!」

「このハヤシライスに切り落とし肉だと柔らかすぎるんだよ、熊野。そのせいで牛肉の旨味が全部抜けちまってスッカスカなんだ」

 ハヤシライスには大きく分けて2つの作り方がある。じっくりと煮込んで作るタイプと、炒め煮のように作るタイプだ。じっくりと煮込むタイプは長時間加熱する為にモモ肉やスジ等の煮込んで柔らかくできる肉が好ましい。しかし薄切り肉や切り落としのような火が入りやすい肉は必要以上に火が入ってしまい、肉本来の旨味や甘味がとけだし過ぎてしまうのだ。

 逆に炒め煮のように作るには薄切りのタイプが向いている。
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