巻ノ七十一 危惧その六
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「その様に考えておられる」
「ですが太閤様はご高齢で」
「若し何かあればな」
「はい、お拾様はご幼少です」
「とても天下は治まらぬ」
「だからですな」
「次の天下人は関白様でなくてはならぬが」
それでもというのだ。
「今の太閤様はな」
「お拾様が可愛く」
「やはり我が子は可愛い」
家康はここで彼の長子であった信康のことを思い出した、信長の命で泣く泣く腹を切らせたが彼への愛情を忘れたことは一日たりともない。
「それでじゃ」
「どうしてもですな」
「その様にお考えになられておる」
「ですが」
「言った通りじゃ、太閤様はご高齢じゃ」
「何かあれば」
「お拾様は幼過ぎる」
それでというのだ。
「関白様でなければな」
「それがおわかりになられぬ」
「太閤様ではないというのじゃな」
「そう思いまするが」
「親子の情は何よりも深い」
ここでまた信康のことを思い出した家康だった、そのうえで服部にも言うのだった。
「御主もわかるであろう」
「確かに」
服部にも子がいる、それで家康の言葉に頷くのだった。
「そう言われますと」
「それでじゃ」
「このことに関しては」
「このままではそのお想いが日に日に強くなりな」
「止めることがですか」
「出来なくなる、既に利休殿と唐入りのことがある」
この二つのことにもだ、家康は言及した。
「大納言様がいつもお傍におられた時とは違う」
「歯止めがですか」
「効かぬことがある、だからな」
「今のうちにですか」
「何とかする様に動いておく」
「それが為にも」
「頼むぞ」
「わかり申した」
服部も応えた、そして実際に彼は腹心である十二神将達にも話し秀次の身の周りの警護を密かにさせた。
秀吉の異変には大谷も気付いてだ、大坂城内で石田に密かに囁いた。
「気付いておるな」
「うむ、危ういな」
石田は腕を組み大谷に険しい顔で答えた。
「太閤様はな」
「関白様を邪険に思われておる」
「近頃都や大坂で妙な噂が出はじめておる」
石田も大谷に言う。
「殺生関白という言葉じゃ」
「摂政関白をもじったな」
「関白様が狩りが禁じられている時や場所に狩りをして獣を殺したりな」
石田はまずこのことを話した。
「そして聚楽第から鉄砲で民を撃っておるだのな」
「馬鹿な、そんなことは」
「うむ、有り得ぬ」
石田も言う。
「あの方はそうした無道はされぬ」
「そうした方では断じてない」
「他にも武具を集めておるなぞな」
「それは武家の嗜みじゃ」
武士ならば戦に備えるものだからだ、大谷はこのことは問題なしとした。
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