巻ノ七十一 危惧その五
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「都にしろこの大坂にしろじゃ」
「はじめは何もなく」
「そこに人が入りな」
そしてというのだ。
「築く」
「そのうえで」
「もうけられるのじゃ」
田畑や町に港、城がというのだ。
「だからな」
「江戸もまた」
「築く」
これからというのだ。
「そうする」
「わかり申した」
「そしてやはりな」
「城ですな」
「うむ、築くことが出来れば」
その時はというのだ。
「巨城を築こうぞ」
「是非共」
こうした話もした家康だった、だが。
正純と崇伝にはだ、厳しい顔で注意もしたのだった。
「わしは謀は使うが」
「あまり、ですか」
「みだりにはですか」
「用いるものではないとも考えておる」
こう言って注意するのだった。
「やはり正道を歩むべきじゃ」
「殿としては」
「その様にお考えですか」
「天下は謀ではなく法と仁によって治めるものじゃ」
家康の根底にある考えだ、実際にこの考えに基づきこれまで領地を治めてきて領民達にも公平な名君として慕われてもいる。苛斂誅求もせず彼は領地の民からはよく殿様として愛されてもいるのだ。
「だからな」
「はい、では」
「我等も必要な時以外は」
「言うことはない、わしも用いぬ」
謀をみだりにはというのだ。
「正道の政こそが最もよいのだからな」
「わかり申した」
二人も家康の言葉に頷いた、だが家康はここで再び天下に考えを巡らせることとなった。だがそれは己の胸の内に収め。
そしてだ、秀次を陰に日向に支える様になっていた。特に。
服部にだ、こう命じたのだった。
「若し関白様に何かあればな」
「その時は」
「お護りせよ」
「我等伊賀者が忍として」
「そうせよ、必要とあらば伊賀十二神将もじゃ」
服部の腹心であり伊賀の上忍達である彼等もというのだ。
「使ってな」
「わかり申した、それでは」
「政の方はわしが何とかする」
「関白様の御為に」
「天下の為にな、しかし」
「しかしとは」
「日に日にじゃ」
家康は屋敷の己の間で呼んだ服部に難しい顔で述べた。
「雲行きが怪しくなってきておるわ」
「関白様に関して」
「太閤様に暗いお考えが宿られておる」
「まさか」
「そのまさかじゃ」
家康は服部にすぐに答えた。
「関白様をな」
「そして、ですか」
「お拾様をな」
我が子である彼をというのだ。
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