百十 湖畔で交わす
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る岩場に舞い戻って来ていた彼は、眼下の光景を静かに見下ろす。陰鬱なその場で漂う空気がナルトの濡れた髪を冷ややかに撫でた。
「どうする?」
初めて祠を前にした時と同じ台詞で問う紫苑に、ナルトは何も答えずそのまま軍団目掛けて突っ込む。何の計画も無しか、と紫苑は怒鳴ろうとして舌を噛みそうになり、慌てて唇を噤んだ。
頭上の岩場から飛び出してきたナルトに気づいた幽霊軍団の兵が一斉に槍を掲げる。風を切って振り翳された槍を軽く避けたナルトは、空中で紫苑を腕に抱きかかえ直した。
そうして驚異的な跳躍力で、封印の祠の前に着地する。その衝撃で祠に張り巡らされた注連縄が大きく揺れた。
祠の入り口で慎重に下ろされた紫苑は、戸惑い気味にナルトを見返す。
「行け」
有無を言わさぬ強い口調で、ナルトは封印の祠の奥を指し示した。
「行って、お前の…巫女の義務を果たしてこい―――紫苑」
祠に近づく幽霊軍団を、決して紫苑に寄らせまいとしながら、ナルトは彼女に背中を向けた。その背はやはり変わらず、力強く頼もしいものだった。その姿に、紫苑は希望の光を確かに見た。
踵を返して祠の奥へと姿を消した巫女を、ナルトは背中越しに感じ取って、ふっと微笑んだ。
「頑張れよ……巫女さん」
祠の入り口から続く石造りの道を抜けた紫苑を待っていたのは、溶岩が湧き立つ広大な空間と、そして、長年巫女の宿敵である存在だった。
「……大きく、なったな…」
不気味な声に導かれ、紫苑は弾かれたようにその声の主を見た。全身の震えが止まらず、額からは溶岩による暑さが原因ではない汗が滴り始める。
洞窟の奥に座り込むその男性の姿を目にした途端、紫苑の胸元の鈴が警報音を掻き鳴らした。
「改めて、若き巫女に挨拶をしておこう…」
気だるげに顔を上げた男は、かさついた唇に弧を描いた。生気の無い顔が軽く顎を動かすと、男の両隣に控えていた幽霊軍団の兵が二体、紫苑に向かって近づいてくる。
後ずさりした紫苑は、背後からも聞こえてきた音に、ぱっと後ろを振り返った。洞窟の出入口を塞ぐように、此方へ歩いてくる青銅の石像が二体。
前からも後ろからも、ズシンズシン、と重低音の足音を響かせて幽霊軍団の兵が紫苑に迫り来る。
「我が名は黄泉……かつてお前の母――弥勒に野望を阻まれし者」
下はぐつぐつと煮えたぎる溶岩。その上には迷路のような通路が続いている。
踏み外せば、マグマの中に落ちてしまうという危険な場所で、紫苑は周囲を見渡した。四方から迫る幽霊軍団の兵に、顔を引き攣らせる。
「復活した【魍魎】を率いた我らは世界をその手に掴もうとしていた。
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