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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百三十話 捕虜交換(その1)
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凄く知りたいと思う。


帝国暦 488年 12月 20日  イゼルローン要塞  エルネスト・メックリンガー


「メックリンガー提督、お疲れ様でした。さぞ大変だったでしょう?」
「いえ、そんな事は有りません。同盟も帝国も今回の捕虜交換を成功させたいと思う気持は同じです」
私の言葉にヤン提督は“それは良かった”と笑みを浮かべた。柔らかい笑みだ、ヴァレンシュタイン司令長官に何処か似ている。

私がイゼルローン要塞に着いたのは今月の十日だった。それ以後帝国の軍務省から派遣された軍人達とハイネセンから派遣された同盟の軍人達の間で捕虜交換について実務レベルでの調整が続いた。そして昨日、調整が終了した。

ヤン提督には“そんな事は有りません”と答えたが実際には簡単なことではなかった。両国の担当者が捕虜交換を成功させたいと思っていたのは確かだが、両者とも国の面子を背負っている。帝国は同盟を反乱軍と呼び国家としては認めていない、そして同盟はその事を必要以上に重視している。

式の手順は当然だが捕虜のリスト―――帰還する捕虜、帰還を拒否した捕虜、抑留中に死去した捕虜の三種類のリスト―――の確認。さらには捕虜交換の証明書に帝国と同盟、どちらの国名を先に記すか、調印者の名前はどちらが上に来るかなど、どうにも下らない事で揉め続けた。そして彼らの間に入って調整をまとめたのが私だ。形式と言うものの馬鹿馬鹿しさを嫌というほど味わった。

私も含めて両国の担当者が紆余曲折は有っても調整を終える事が出来たのは、捕虜交換を成功させなければならない、失敗すれば国には帰れないという恐怖心と一日毎にイゼルローン要塞に到着が近付くヴァレンシュタイン元帥の事が頭に有ったからだろう。

閣下が到着した時点で調整が終わっていないとなったらどうなったか……。考えたくも無い事態だ。おそらく何も言わずに自ら調整を始めるに違いない。多分閣下の事だ、同盟側の意見を丸呑みする形でまとめただろう。

今夜は慰労を兼ねて親睦パーティが開かれている。パーティはこれで二回目だ。到着したその日にも歓迎パーティが開かれた。もっともその時は初対面ではあるし調整作業が残っている事も有ってかなりぎこちないものだった。それに要塞の外には私の艦隊が警戒態勢をとっている。同盟側も落ち着かなかったに違いない。

それに比べれば今夜のパーティは皆明るい顔をしている。皆調整が終わったという事を知っているのだろう。昨日まで顔をあわせればいがみ合っていた帝国と同盟の担当者達の顔にも笑みがある。彼方此方で談笑が弾んでいる。

「メックリンガー提督、形式というのは必要かもしれませんが時には馬鹿馬鹿しいものでもありますね」
「同感です、ヤン提督」
どうやらこちらの苦労はお見通しか……。形式的なことが嫌いな
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