暁 〜小説投稿サイト〜
落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜
本編 生裁戦士セイントカイダー
第6話 両手に花……?
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少なくとも、上っ面通りのムードではない。何が彼女達をそうさせているのは知らないが。
おかげ様で、ゆっくり映画を鑑賞することもできなかった。
台詞回しはちゃんと聞いていたつもりだが、刺だらけの両手の花が恐ろしい余り、ストーリーはまるで頭に入らなかった。
映画館からまるで世界最高峰の恐怖アトラクションから生還してきたばかりのように、やつれた顔で出てきた俺を、平中はさらに食事へとエスコート。
もちろん、この険悪な空気の元凶たる舞帆付きで。
「ああ〜ッ! 楽しかった! ほら船越さん、ここのパスタはすんごくイケるんですよ! 私のお墨付きです!」
顔を傾けると、セミロングの艶やかな髪がフワッと揺れる。
その平中の何気ない仕草が、色っぽく、かつ可愛らしく見えた。
そんな女の子との至福の一時も束の間、隣に座る舞帆の踵落としが足の甲に直撃し、俺の意識を痛烈な現実に引きずり込む。
「――お、おふッ!」
「え? どうかしたんですか?」
「な、なにも……!」
恐る恐る横に目を向けると、獲物を捉えた狙撃手のような眼力で睨みつける舞帆が、「何言ったそばから鼻の下伸ばしてんのよ」と釘を刺してくる。
……伸ばしたっていいじゃんよ。だって男だもの。
「船越さん、はい、あ〜ん」
そんな折、平中の大胆な行動に拍車が掛かったらしい。
フォークに絡めたパスタを、俺の口へと運ぼうとする。
正直、これは危険だ。
ただ仕草の愛らしさにデレデレしたくらいで足を踏むような鬼軍曹が隣にいる状況で、「あ〜ん」に応えて甘酸っぱい味わいを堪能するなど、ギロチン台にヘッドスライディングを敢行するようなもの。
……いや、しかし、こんなチャンスは今後一生来ないかもしれない。
今この瞬間に、俺の人生のモテ期が終焉を迎えることになるかもしれない。
「命」と「モテ期」を秤に掛けるなら、懸けるとするなら……答えはもう、出ているはずだ。
「あ、あ〜ん!」
俺は命を投げ出す覚悟で、目を閉じつつ差し出されたフォークに食らい付く。
口の中に、ソースの味が広がっていく。味そのものはごくありふれた、普通のもの。
だが、その時感じた味は、徐々に一生忘れられない特別なものに変化していくのだった。
……悪い意味で。
「か、からぁーッ!」
両手で口を塞ぎ、七転八倒する俺。何が起きたのか、この時はまだわからなかった。
汚れたゴミを見下すような目で見る舞帆の顔を見上げるまでは。
「平中さんのパスタ、美味しかったのねぇ〜。あんまり嬉しそうだったから、もぉ〜っと幸せな味にしてあげたわよ」
その手には、七味唐辛子。瓶の中身は半分以上が失われていた。
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