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真田十勇士
巻ノ七十 破滅のはじまりその五
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「その様にな」
「若しや関白様にも」
「勘気を受けぬ様にとな」
「言われましたか」
「実際な、だからわしも太閤様のことを気遣い」
「そしてですか」
「穏やかな話をしておるが」
 それがというのだ。
「わしから見れば太閤様はな」
「特にですか」
「変わらぬ様に見える」
 そうだというのだ。
「別にな」
「そうしたことはなく」
「以前と変わらぬ、利休殿のことはな」
 それはというと。
「何かあったのかとな」
「太閤様だけがご存知だ」
「そうした事情があったのかと思っておる」
「では太閤様は」
「そうですか」
「しかしどの様な事情であれ」
 秀次は悲しい顔になり幸村にこうも話した。
「大納言様、叔父上がおられれば」
「利休殿はですか」
「叔父上が止められてな」
 秀吉、他ならぬ彼をだ。
「ああはならなかった」
「よく言われていますな」
「太閤様を止められるのはな」
「大納言様だけでしたか」
「そうであった、治部と刑部も頑張ってな」
 そしてとだ、秀次はさらに話した。
「前田殿も内府殿もおられるが」
「太閤様を必ず止められるのは」
「あの方しかおられなかった」
 秀長、彼あけあったというのだ。
「それがな」
「太閤様より早く亡くなられ」
「叔母上の話も聞かれるが」
 それでもというのだ。
「常に傍におられぬ」
「大納言様とは違い」
「そうじゃ、叔父上はいつも太閤様の傍におられた」
 秀吉の実の弟としてだ、それで秀吉の傍にいつも控え何かあればすぐに彼を止めていたのだ。
「叔母上はおなごであられるからな」
「女は家にいるもので」
「戦の場や政の場にはおられぬ」
 それが為にというのだ。
「太閤様を止められてもな」
「すぐにその場でとは」
「いかぬ、しかも叔母上は縁の下の方」
「だからですな」
「政に口を出される方ではない」
 あくまで女房なのだ、その立場から秀吉を支え続けており根っからの百姓のおなごであるのがねねである。
「だからな」
「政のこととなると」
「叔父上は必要であられた」
 どうしてもというのだ。
「今言っても仕方ないが」
「ですか」
「とにかくわしは今はここでな」
 都にある聚楽第にいてというのだ。
「政を見る、そしてな」
「やがては」
「天下を治める」
「では」
「その時は御主にも力を借りたい」
 幸村、彼にもというのだ。
「頼むぞ」
「わかり申した」
「御主は自分では政は不得手だと思っておるな」
「実は」
 このことを隠さずだ、幸村は秀次に答えた。
「そう自覚しています」
「どちらかというと武じゃ」
「そちらの者かと」
「そうじゃな、しかし御主も決してな」
「政についてですか」
「劣っておらぬ」

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