Side Story
少女怪盗と仮面の神父 37
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すらりと伸びる脚にピッタリ添う黒いズボンと黒革のブーツを穿き、硬めの布地で作られた袖無しの白いシャツを纏う血塗れな体が、刹那の浮遊後、腹を下に向けて地面へ落下する。
「ぅく……っ」
足下に転がっていた石で顔面を強打する間際、アーレストの左腕が彼女の首を背後から抱えて軽く持ち上げ、右手が毒矢を握る手を掴み、体重を掛けないよう、左膝を腰に乗せた。
下腹部を地面に押し付け、絞め過ぎず、されど決して逃げられない程度の力で上体を反らし、固定した格好だ。
速い。
直前までほぼ密着状態で立っていた筈なのに。腕を絡めた相手の何処をどうすれば、一瞬で組み伏せる形になるのか。目で追い切れる速さではなかった。
王子と神父の会話を大人しく見守っていた騎士達が、一様に愕然とした表情で固まる。
「お……前、は！？」
投げられた本人にも状況が理解できなかったのか。
それとも、投げた相手が問題なのか。
驚愕に目を丸めて全身で強張るイオーネ。
対するアーレストは無表情だ。言葉通り、何の感情も窺わせない顔。
人形のほうがまだ熱を感じさせる……そんな、いつもとは全く違う意味で人間味に欠けた面差し。
呼吸しているのかどうかさえ疑わしい不気味な面がイオーネの右肩に乗り……金の目と銀の目が交差した。
「…………！！」
何も映ってない。
いや、イオーネの顔は映ってるが、意思あるものを映している目ではなかった。
今のアーレストは何も見てない。何も感じてない。
整えられた道を歩く。階段を昇降する。誰がいつ、何の意図があってどんな材料を素に成形したかなんて考えない。行く先に在ったから、当然のモノとして踏む。それと全く同じ感覚でイオーネの首を抱えている。
此処に在るのは琥珀に近い金色の闇。
騒音さえ呑み込んで消し去る虚空……『無』だ。
「な……ん、なの……？」
数多くの命を斬り棄てて来た暗殺者の顔が ざ……っ と音を立てて色を失くした。
ほんの十数秒前にミートリッテを嘲笑っていた彼女が、滑稽なほどの怯えに侵食されていく。
「なんなのよコレは！？ 神父？ 聖職者！？ 違う！ コレがそんなモノである筈がない！！ お前……お前は一体『何』！？」
血が流れ続ける背中を無理に反らされているだけでも相当痛い筈だが、イオーネは無我夢中で暴れ出した。
拘束されてない左手と両足をばたつかせ、体幹部を右へ左へ捩って跳ねる。
しかし、固定具と化したアーレストは、彼女を押さえたまま一切動かない。
「コレとかモノとか失礼な。アーレストは歴としたアリア信仰の神父だぞ。どうせ、初対面の時に説明聴いてたんだろ？ じゃなきゃ、そいつを殺す理由は無いんだし」
「嘘よ！ アリア信仰の神父がこんな目……っ」
「嘘は吐いてないって。
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