Side Story
少女怪盗と仮面の神父 37
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ないあの領主は無能だ、とまあ、本当に口さがない。
普通さあ。命を奪い合ってる剣戟の最中に後ろから突然「喉が渇いたので水を下さい」とか言われて「はい、どうぞ」と、すぐさま差し出せるか?
誰がどう考えたって不可能だろ。
施政者ってのは、一瞬で敵を撃退したり、限られてる資源を望まれるだけほいほい振り撒ける万能の神じゃない。
だが、民衆には己の身を削って税を納めてる自負があるから、王侯貴族も身を削るのは当然だと考えてる。
結果、施政者と彼らに追従する騎士を護る存在が居ない事実に目を瞑る。
己の言動こそが自身を護る盾を傷付けてる、という現実から目を逸らす。
「じゃあさ。施政者達は、自分で自分の身を護るしかないよな?」
「……王候貴族が権力を笠に着るのは、当然の権利だと?」
「その通り」
剣であり、盾である限り、私達のたった一言、たった一つの仕草が、民の生活基盤を揺るがす弱みに仕立て上げられるだろう。
私達が足を掬われれば、内外からのあらゆる危害が民へ領地へ降り注ぐ。
だから、保護対象にどんだけ悪どく見られ嫌われようが、託されたものを護りたいと願えばこそ、私達は与えられた地位や権力を最大限活用して己の保身を図る。
逆に言えば、権力を平然と振り翳す図太さや度胸や計算高さが足りない、至極真っ当な人間は、決して護国の要にはなれないのさ。
「ああ、マルペールのお門違いな愚行を擁護するつもりなら微塵もないぞ。私が言っているのは、国を護る自覚を持った人間の話だからな。大切な物を奪られた腹いせで身内に牙を剥いた短絡的なド阿呆は論外だ、論外。その辺一緒にされると非常に大迷惑なんで、そこんトコは誤解しないように。とは言っても、マルペールの心情まで否定するつもりはないが」
「はっ……薄汚い人間同士、結局は気が合うんじゃない?」
「いやあ? この場合は、生物としての共感だな」
野生の獣だって、自分の大切なものを奪われたら怒る。
今まであったものが突然失くなったら、心配して探し回るんだ。
他者への八つ当たりは最低で最悪だが、かと言って、形見を奪われた奴のやるせなさや憤り、不安や悲しみを軽く見るのは、そりゃあんまりだろ?
表に出せば悪用されかねないから、極力潜めちゃいるが。
強欲で傲慢と罵られる権力者にだって、それなりの情はあるんだよ。
「けど、だからこそ時には己の良心に反した決断を下さなきゃならん局面も訪れるし、ここはここで結構辛いんだぞ? なあ、ハウィス=アジュール=リアメルティ。ミートリッテ=インディジオ=リアメルティ」
「!」
唐突に正式名を呼ばれ、ハウィスは己が仕える主を肩越しに振り返る。
王子は緩慢な動作で母子へと向き直り、若葉色の目をアーチ状に細
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