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真田十勇士
巻ノ六十九 前田慶次その三

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 その話をしてだった、前田はあくまで引かない。しかし幸村は前田と奥村のやり取りも聞きつつそのうえで言うのだった。
「それがしは別にです」
「無礼はか」
「気にしませぬ」
「そうか、しかしな」
「それでもですか」
「御主も大名じゃ」
 そうなったからというのだ。
「これはな」
「大名としての誇りをですか」
「あ奴が汚せばな」
 その時はというのだ。
「わしが殴っておくからな」
「それでは」
「遠慮なくわしに言うのじゃ」
 あくまでこう言うのだった。
「よいな」
「ですか」
「まあ慶次には会ってもらいたい」
 こうも言った前田だった。
「あれで腕は立つし悪い者ではない」
「それ故に」
「会って何か得られる」
「だからこそ」
「どうも御主は生真面目に過ぎる」
 幸村の何処までも一本気なその心を見ての言葉だ。
「だから遊びもな」
「知ってですか」
「これからのことに活かしてもらいたい」
「では」
「あ奴は、都ならな」 
 この町ならと言うのだった。
「勇躍にでもおるわ」
「ではそこに向かえば」
「会える、そこにいなければな」
「喧嘩ですか」
「その辺りの喧嘩を売ってきたならず者を叩きのめしておる」 
 遊郭にいなければというのだ。
「そうしておるわ」
「では」
「うむ、行くことじゃ」
 そこにというのだ。
「いいな」
「わかり申した」 
 幸村も応えてだった、彼は前田慶次と会うことにした。それを決めて真田家の屋敷を出るとだった。そこで。
 十勇士達が一斉に幸村のところに集まってだ、こう言って来た。
「殿、戻りました」
「今から何処かに行かれるのですか」
「そうされるのですか」
「うむ、これより遊郭に行きな」 
 そしてというのだ。
「前田慶次殿に会うつもりじゃが」
「あの、ですか」
「あの前田慶次殿とですか」
「お会いになられますか」
「そのおつもりですか」
「知っておるのじゃな」
 幸村は十勇士達に問うた。
「前田慶次殿のことを」
「有名な方ですから」
「天下屈指の傾奇者と」
「槍の腕も凄く」
「相当な猛者であられると」
「立派な馬に乗られて」
 十勇士達は幸村にこう答えた。
「確か松風といいましたな」
「途方もなく見事な馬だとか」
「前田慶次殿ご自身も大柄で」
「馬も大層だとな」
「そうか、そこまで知っているのならな」
 幸村も応えて言う。
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