巻ノ六十八 義父の病その八
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「病ですか」
「うむ」
「それも」
「業病じゃ」
大谷は自ら言った。
「罹ってしまった」
「左様ですか」
「無念じゃ」
大谷は声だけで幸村に言った。
「これからと思っておったが」
「お気持ち察します」
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「太閤様はこのわしに変わりなく接してくれてじゃ」
大谷はさらに言った。
「佐吉もな」
「治部殿もですか」
「変わりなくじゃ」
「接して下さっていますか」
「むしろ励ましてくれておる」
石田、彼はというのだ。
「有り難いことにな」
「治部殿らしいですな」
「あ奴は平壊者で言わずにはおられぬ」
「何でも」
「正しいと思ったことを誰にもな」
これが石田の長所であり短所だ、彼は何時でも誰でも己が正しいと思えば遠慮なく言う男で秀吉に対しても言う。
「言う、しかしな」
「それでもですな」
「分け隔てなくじゃ」
「義父上にも」
「そうじゃ、今もな」
「病に罹られても」
「そうしてくれておる」
こう幸村に話すのだった。
「この前茶会があり」
「その時にですか」
「大名達で回し飲みしたが」
茶をだ、茶の飲み方の一つだ。
「わしの顔から膿が出てな」
「その膿が茶にですか」
「誰も飲まなかった」
彼が顔の膿を落としてしまったその茶をだ。
「しかしあ奴は飲んでくれたのじゃ」
「その茶を」
「そのままな」
「左様ですか」
「あ奴の気遣いじゃ」
石田、彼のというのだ。
「わしにそうしてくれたのじゃ」
「そうでしたか」
「このこと忘れられぬ」
深くだ、大谷は言った。
「あ奴はわしに恥をかかさず心を見せてくれた」
「流石は治部殿ですな」
「遠慮なく誰にでも何時でも言うが」
「そのお心は奇麗ですな」
「その心でわしを救ってくれた」
「それでは」
「わしはあ奴から離れぬ」
この決意をだ、大谷は幸村に話した。
「地獄の果てまで付き合ってやるわ」
「そう決められたのですか」
「うむ、御主にそのことを話したくてな」
「参上しましたか」
「関白様にお会いする為であったが」
それと共にというのだ。
「御主にこのことも話したくてな」
「参られましたか」
「そうじゃ、しかし御主はな」
「義父上にですか」
「ついて来ずともよい」
こうも告げたのだった。
「御主jは真田家の者じゃ」
「だからですな」
「真田家についてじゃ」
そしてと言うのだった。
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