暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 36
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
差もなく追いつけるとは考えにくい。

『バーデル軍は何故、暗殺組織がネアウィック村の周辺に居ると確信して、前触れもなく武装したまま国境を越えてきたのか』

 差し迫る事情があったとはいえ、領土侵犯だと訴えられても反論できない行為を強引に押し通すだけの確信は、()()()()得た?

 ……そんなの、決まってる。
 ()()()()()だ。

 イオーネは当初、人身売買を考えていた。
 ブルーローズの時と同様にアルスエルナ国内の治安を乱しているであろうシャムロックを、アリア信仰に一矢報いたいと考えてる反アルスエルナ派の人間が多数在籍するバーデル軍へ、手早く売ろうとしてたんだ。

 アルスエルナ崩壊の起爆剤となる義賊の情報は反アルスエルナ派にとって垂涎物(すいぜんもの)のエサ。イオーネの交渉次第でもあるが、単純に商人殺しの容疑者を捕まえるより価値は高かろう。
 最悪なことに、バーデルの上層では現代も奴隷制度が活用されている。
 特に女子供は使い途が多く、それだけで付加価値が跳ね上がる。
 即ち、バーデルがミートリッテの売買を断る理由は、ほとんどない。

 だが、途中でイオーネの気が変わった。
 エルーラン王子と元義賊が交わした賭けの詳細を知り、実態はどうであれ戦力を増強させている貴族、犯罪者を(かくま)う王族に対する一般民と貴族の猜疑心(さいぎしん)から生じる国内の混乱、商人殺害で隣国を攻撃したアルスエルナ人、といった、反アルスエルナ派の戦備に使える口実と、関係各国の非難を防ぐ正当な牽制を入手できると踏んだから、方針を変えた。

 よく考えると、この流れも少しおかしい。

 アーレストは、イオーネ達もシャムロックが盗んだ品に移っていた微かなオレンジと潮の匂いから、ネアウィック村に行き着いたと言った。
 しかし。

 南方領を訪れ去るバーデル方面御用達の商人は基本、西方領と直接繋がる酷道(こくどう)を避け、中央領を介して西方領の関所へと向かう。
 国外に居たイオーネがシャムロックの潜伏先を嗅ぎ分けようとするなら、候補地は南方領全土のみならず、南方領と隣接する東方領の南部にも及び、海沿いのオレンジ農園と限定しても、全部を合わせると三桁に近くなる。
 自分達を追うバーデルの軍人達を誘導しつつ越境なんて危険を犯すのに、匂いだけでは確証が少なすぎやしないか?

『イオーネは何故、シャムロックの存在をネアウィック村に見出せたのか』

 鍵は、王子とハウィスの賭けだ。
 多くの嘘に振り回されながらもシャムロックの行動はすべて指輪に帰結、イオーネとの接点にもなっている。

 この賭け、いつから始まってた?
 五日前?
 違う。
 その前の深夜
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ