巻ノ六十八 義父の病その三
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「それはなかったですが」
「それでまた何故じゃ」
猿飛もいぶかしんでいる。
「大殿はその様なことを言われるか」
「わからぬな」
穴山は腕を組み首を傾げさせている。
「これは」
「全くじゃ」
根津は穴山に続いた。
「あの方を何故見る」
「確かに二百五十万石の大身であられるが」
最後に由利が言った。
「幾ら何でも」
「そもそも関白様がおられますぞ」
「それでどうして徳川家の天下があるのか」
「それはです」
「ないと思いますが」
十勇士達はあらためて幸村に言った。
「あの方が天下を望まれるなぞ」
「むしろ関白様をお助けされるのでは」
「そのうえで天下を目指されるのでは」
家康の野心について言った筧も言っていた、実は彼も言ってみただけで家康が天下を望んでいるとは見ていない。
しかしだ、幸村はその彼等に言うのだった。
「しかしな」
「大殿は、ですか」
「その様に言われていますが」
「徳川家も見よ」
「その様に」
「そうなのじゃ」
まさにというのだ。
「伊達家と共にな」
「まさかと思いますが」
「あの方が天下を望まれるなぞ」
「とても」
「少なくとも今は、とのことじゃ」
今の時点ではというのだ。
「あの方は天下を望まれてはおらぬが」
「しかしですか」
「今後はわからぬ」
「そうだというのです」
「そう言われておる」
昌幸はというのだ、上田の。
「父上も徳川家を見られるそうじゃが」
「大殿ご自身も」
「そうされますか」
「では、ですか」
「我等も東国に入り」
「見よと」
「そうじゃ、しかし」
幸村自身首を傾げさせて言った。
「関白様がおられればな」
「はい、天下はですな」
「次の天下は決まっていますな」
「あの方で」
「それは揺らぎませぬな」
「そう思う、あの方がおられれば」
幸村は秀次については確かな声で言えた。
「天下は決まる、しかし」
「若しもですか」
「あの方に何かあれば」
「その時は」
「次の天下人がいなくなる」
そうなるというのだ。
「一応関白様のご子息がおられるが」
「ご幼少ですし」
「やはり頼りないですな」
「それでは天下人がいないも同じ」
「そういうことですな」
「確かなお歳でしっかりした方ではないと」
それこそというのだ。
「難しい、だからこそな」
「あの方でなければならない」
「豊臣家の天下の為には」
「必ず」
「そう思っておる、関白様に何かあれば」
その時はというのだ。
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