9. パンプキンパイと深煎りコーヒー
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れる。鳳翔の指示に忠実に……
厨房に味噌のいい香りが漂ってきた。取皿に少し取り、味を見る。……よし。隼鷹が褒めてリクエストしてくれた、俺の豚汁の味だ。
――提督、ご武運を
戦いに行くわけじゃないんだけど……ありがとう鳳翔。
「わぁあ〜いい匂い〜……今日も豚汁?」
まだ夕食の時間には早いだろうに……食堂に遊びに来たらしい川内が味噌の香りにつられて厨房にやってきた。夜戦の時のように目をらんらんと輝かせ、今まさに出来上がりつつある豚汁の鍋を覗き込んでいる。
――提督 それが叶わなかった私たちの分まで……どうかお幸せに
幸せをつかむ寸前に、志半ばで鎮守府を去った神通の声が、俺のことを激励してくれた。……ごめんな神通。本当はお前にも、彼と幸せになって欲しかったけれど……
――短い間だけでしたけど、私は幸せでしたよ?
そっか。ならよかった。
その後川内のリクエストで、付け合せに卵焼きも作った。瑞鳳直伝のものに大根おろしを乗せた、俺がカスタマイズした自信作。隼鷹も認めてくれた逸品。あとは三度豆の胡麻和えも作って、今日の夕食の準備は終了。
「おなかすいたクマ〜」
「ほら加古……私によりかかって寝ながら歩かないで……」
「うーん……むにゃむにゃ……」
ほどなくしてタイミング良く食堂に集まってきた艦娘のみんなと共に夕食を済ませ、皿洗いと後片付けに入る。鎮守府のオカンはこう見えて忙しい。
夕食を済ませた飛鷹が、今日は珍しく手伝ってくれた。
「提督、たまには私も手伝うわ」
「おう。ありがとー」
俺がジャバジャバと皿を洗いゆすいでいくと、飛鷹がその隣で片っ端から洗った皿の水気を拭きとっていってくれる。
「ねぇ提督?」
「んー?」
「今日は隼鷹とサシ飲みするの?」
「よく知ってるな」
「隼鷹がね。嬉しそうに言ってたわ」
皿を拭きながら、飛鷹がそんな報告を俺にあげてくれた。皿を拭く飛鷹の手がリズミカルに動いてる。横顔を見た。隼鷹とそっくりだけど、少し違う笑顔がそこにあった。
「ほーん……あいつがねー……」
「『この隼鷹さんのとっておきを飲むんだ〜』って言ってた。ラベルに“獺祭”とか書いてある日本酒出してたわね」
「やっぱ日本酒か」
「ええ」
満面の笑みでそれを準備する隼鷹が目に浮かぶ。……きっとその時、隼鷹からは星がこぼれる音が聞こえてたんだろうな。
「……提督」
「ん?」
「……今晩、言うの?」
何を? ……なんてことは言わない。きっと飛鷹は気付いてる。
「言う」
「……」
しばらくの間、厨房に鳴り響く音が皿をゆすぐ音だけになった。俺はただもくもくと皿を洗い続け、飛鷹はただ皿を拭き続けた。
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