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霊群の杜
通りもの
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「――最近、夢は見ているか」
いつも通り、書の洞で今日発売の漫画雑誌を繰っていると、奉がそんなことを云ってきた。
「何故、今更お前と熱血青春トークをしなければならんのだ」
「そっちの『夢』じゃねぇ。夜に見る夢のほうだ」
「おっと」
すっかり忘れていた。奉は俺の『隠れ里の夢』を妙に気にしていた。隠れ里の夢を見たら報告しろ、とか云ってたな。俺は簡素な寝床に横たわって伸びをした。
「全然。不思議なくらい、全く見ないや」
あの日の、妙に深刻な奉の顔を思い出すと少し笑いすら出てくる。
「考え過ぎだったんだよ奉。あれは偶然。俺かお前が死ぬなんて…」
昨日夜ふかししたせいか、何だか妙に眠い。この洞の薄い灯りも眠くなる。机の傍らには、いつか境内に放置された土偶に電球を仕込んでランプに改造した変なオブジェが置いてある。なんだあれ、暇かよ奉……。
「全く、夢を見ないのかねぇ」
「……んー、見ないな」
「そんなこと、今まであったか?」
「…………知らないよ、あ、やばい、ちょっと眠」
「―――寝ていい」
「……ごめ……借りるわ……」




―――海が見える坂道のガードレール。いつもの、俺の場所だ。


弟たちが、浜辺で一心不乱に貝を拾っているのが見える。口元がほころぶ。海から出て来た   が、俺に向かって大きな貝を振って見せた。双子貝だ。一つの貝殻に二匹の貝が棲んでいる。いいのを見つけたな。あれは割といい出汁がでる。
ただ俺が好きな食べ方は『片方だけ食う』やり方だ。生き残ったもう片方に、死んだ片方が憑依するのが面白い。
「今日は味噌汁だよー!!」
精一杯怒鳴ったのだろう。割と聞こえた。   が、   に食ってかかっている。そういえばあいつも、片方だけ食ってもう片方を観察するのが好きなんだ。
「―――悪趣味な」
背後から声がした。こいつは。
「ふぅん、またそういう設定か。俺が、分からない設定か」
この間、ガードレールから飛び降りて消えた奴だ。俺は咄嗟に身構えた。あれから   も、   も怯えていた。あいつは△△△の使いだ、僕たちが食べごろかどうか見に来たんだ、と神経質に泣きじゃくる。大丈夫だよ、お前はもう取られないから。何度そう言い聞かせても泣きやまない。


―――こいつは   を泣かした。   を殺そうとしている。


墨を流し込んだようにじわりと広がる、憎しみと怒り。俺の可愛い弟たちを、これ以上奪おうとするやつは。これ以上、犠牲を重ねて生きながらえようとする外道は…。

たとえ△△△でも、いや、△△△だからこそ。

「この間の問い、もう一度、繰り返す。お前の弟の」
「ああああああああああああ!!!!」
聞きたくない、聞こえない、聞いてはいけない。
この存在は
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