巻ノ六十七 関白秀次その九
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「武士として死ぬ」
「そうされますか」
「潔く、未練なく散るとしよう」
笑みさえ浮かべての言葉だった。
「武士としてな」
「そのお心があれば」
「武士として生きて死ぬことが出来るか」
「最後まで」
「そうか、そういえば真田家の家紋は六文銭だったな」
秀次は幸村にこのことも問うた。
「冥土の渡し賃か」
「左様です」
「死ぬ覚悟はあるか」
「その死ぬ時は」
「武士としてか」
「恥じぬ様にと」
ここで共に茶を飲む十勇士達を見てだ、幸村は秀次に答えた。
「そう誓っております」
「そうか」
「はい、友に武士として死のうと」
「ならば相応しい死に場所まではか」
「生きるつもりです」
「それもまた武士じゃな」
秀次は幸村のその言葉にも微笑んで言葉を返した、頷いてさえいる。聚楽第にあるだけありこの茶の間は絢爛なものだったがその中での秀次の笑みは素朴ですらあった。
「死ぬに相応しい場所まで死なぬのも」
「その間何があるかわかりませんが」
「恥を受ける時もあるな」
「おそらく」
「では言おう」
秀次は幸村、そして十勇士達の考えを知り彼等に言った。
「御主達は死に場所まで死ぬな」
「死ぬに相応しい時まで」
「命を粗末にするな」
そういう意味での死ぬなという言葉だった。
「決してな」
「絶対にですか」
「そうじゃ、恥を受けようともわしが御主達を見ておる」
幸村達の心を知る彼等がというのだ。
「わしが御主達を庇う」
「その時は」
「わしがその恥を注ぐからな」
「だからですか」
「生きよ」
こう言うのだった。
「その時までな」
「そうして下さるのですか」
「優れた者の心を護るのも武士であろう」
優しい言葉だった、声も。
「それならばな」
「そうして下さるのですか」
「御主達のことがわかったからな」
だからこそというのだ。
「そうさせてもらう」
「では」
「死ぬべき時まで生きてな」
「そして死に場所では」
「見事武士として戦いな」
「そのうえで」
「死ぬのじゃ、よいな」
こう幸村達に言いだ、そして。
彼等と共に茶を飲みつつだ、こうも言ったのだった。
「今日の茶は特に美味い」
「よい茶ですな」
「ははは、幾らよい茶でも沈んだ気持ちで飲むとまずい」
「では」
「御主達と話せて共に飲んでいるからな」
それ故にとだ、また笑顔で言う秀次だった。
「美味い」
「そう言って頂けますか」
「だからまた飲もう」
こう幸村に言った。
「機会があればな」
「では」
幸村も応える、そしてだった。
幸村と十勇士達は秀次と共に茶を飲みそのうえで聚楽第を後にした、十勇士達は真田家の屋敷に戻ってだ。
そのうえでだ、幸村に笑って話をした。
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