第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
17話 居場所という詭弁
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切望を滲ませた声は余韻も引かぬうちに、ヒヨリ本人の怒声によって押し流される。
「私だって怖かったんだもん! 燐ちゃんがいつの間にかいなくなって一人で頑張ってる間、そのままずっと待ってるのってすっっ……ごく怖いんだから!? お願いだから、私を置いて行かないでよ! 傍に居るんだから、辛かったら言ってよ!? ………一緒に居るのに、遠ざけないで………言ってくれないと、分からないんだから………」
堰を切ったような鬱屈の奔流は、言葉だけでは行き場も足らず、大粒の涙を伴って訴えかけられる。
ヒヨリに知られまいと、自分の罪を明かさないようにと、それだけを順守して過ごしてきた。
何の罪も犯さず、過ちもないヒヨリに負い目を感じながら、それを暴かれる瞬間を怖れて生きてきた。
その生き方は間違いだったと、認めざるを得まい。
事実、俺の振る舞いはヒヨリを傷付けた。言外に、お前は役立たずだと、図らずも言い続けた。
しかし、ヒヨリに余すことなく隠し事を聞かせれば、贖いというには余りにも凄絶なものだろう。お互いに、苦しいだけ。
「人を、殺した」
故に俺は、ヒヨリの叫びに答えた。
曖昧な肯定や否定ではない、事実を以て応えることにした。
「始めに俺を囲んで嗤った七人を殺した。次に仲間を奪われて激昂した十三人と、錯乱した二十人も殺した。人質を取って震えていた最後の一人も、その命乞いさえ一蹴して殺した。それから半年して、また二十二人殺した。合計で六十三人。俺は《自分の目的の為の手段》として、彼等を殺した。………分かるだろう? 俺はもう、立派な化け物なんだ。素直に話せるわけがない。お前が感じていたのは俺が隔てた壁の所為じゃない。悍ましい別種の生物、在り方の違う存在への違和感、嫌悪感だ」
ヒヨリの直感はまさしく天地明察の慧眼であっただろう。理解していないままに真に迫る感覚には舌を巻かされる。
だが、理解していないからこそ、齟齬が生じている。認識の齟齬は正してやらねばなるまい。誤解したままでいいものでもない。
たった一人を救うために、遥かに多い命を奪って安全を確保した。
たった数人を救うために、その人数よりも多い人命を殺した。
その行為には、正義はない。
俺の価値観では、命の重さは平等ではなく、奪い取った彼等の命の重さが軽んじられただけ。
奪われたくないから奪ったという、極めて原始的で、本能的な、歪な行動原理に他ならない。
奪われてから初めて与えられる《復讐》という大義名分でもなく、互いに衝突し合う《敵対》の関係にあったわけでもない。言うなれば、どこまでも自分本位な《我執》の成れの果てが、あの殺戮だったのだろう。常人であれば躊躇するで
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