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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 魔女のオペレッタ  2024/08 
17話 居場所という詭弁
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 だからこそ、PKに興じる者が少なからず発生しても、この世界がゲームという形式をとる以上は回避することの出来ない事態だったのだろう。
 彼等は根本からして思考が異なる。自分達の領域に攻略組の精鋭が雪崩れ込んで、大人しく縛につく者はそう多くはないだろう。
 ほんの二度だけ対峙した見解からすれば、むしろ《やってきた獲物》を前にして牙を剥かないままでいられる筈がない。
 この作戦は、そもそも無血勝利など困難な、乱戦が起こらないと仮定することさえ困難なものだと言える。そうなった上で、攻略組のプレイヤーはどう立ち回るのか。俺の知るところではないが、クーネ達にはレッドプレイヤーを相手にした際の気構えだけは伝えてある。あとは持ち前の慧眼を遺憾なく発揮してもらいたいところだ。

 時刻は、更に半刻を経過していた。
 そろそろ俺も、現地へ発つ頃合いだ。
 装備を確認し、片手剣をやや神経質に手に取っては手動でコートの下に差す。次いで触れた《毒剣(カラティン)》を一先ずはストレージに仕舞い込むと、足音を殺してホームの玄関へ進む。擦れ違うドアの向こうでは、ヒヨリとティルネルが寝息をたてているだろう。アインクラッドに存在するドアの遮音性はシステム的な仕様によって叫び声や戦闘音、或いはノック以外の音は何でも内外でシャットアウトする構造となっている。勘付かれる心配はないのだが、せめて夜は静かに。戻ってこれる確証さえないのであれば、尚更顔を合わせるわけにもいかなくなる。

 これでもう、明日にはどうなっているかさえ解らない。
 滑稽で、利己的で、悍ましい。そんな人間性を隠さなくて済むようになると、妙な安堵感があるなかで、それでも死ぬのが怖い自分がいる。今までは上手く行き過ぎた。だから次も上手く行くという確証は無いし、そんなものは詭弁だ。むしろ、人殺しなどという悪行を繰り返して良い事などないだろうに。仮に死ぬとしても、その後に仲間が生きてさえいてくれれば、辛うじて俺の死に様も無駄にはならないか。

 纏まらない思考の洪水を押し留めて、玄関のドアノブに手を掛ける。
 しかし、手首が捻られるより先に、別の場所でノブが回転し、蝶番の軋む音がゆっくりと鳴り響いた。
 それは、つい少し前に通り過ぎた一室。
 まるで期を図ったように、寝間着姿のままのヒヨリが姿を現す。
 気の抜けた欠伸の一つくらい零すのではと思いきや、その表情はどこか不機嫌そうで、何か爆発物めいた雰囲気を醸し出している。


「もう寝る時間だよ、どこに行くの?」


 短い問いが投げかけられる。
 僅かに糾弾の向きを帯びた声色は、明らかに何かを察したからこその確証によるものだろう。碌に情報も与えていないというのに、理外から真実に辿り着く。論理的思考のセオリーから逸脱した意外性を、ヒヨ
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