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星がこぼれる音を聞いたから
4. フランス料理とラーメンと餃子とビール
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すね。相手のためにも」
「……ええ。まったくです」

 その後は手を繋いで帰っていった柏原司令官とあきつ丸さんを見送った後、隼鷹と2人で会場を後にすることにする。

「隼鷹」
「んー?」
「ありがと」
「何が?」
「色々。フォローしてくれてたろ?」

 輝く雫をこぼしながら歩く隼鷹に、おれはそう言った。今晩の晩餐会がうまくいったのはこいつのおかげだ。こいつのフォローでどれだけ俺が助かったことか。

「いいんだよ。言ったじゃん。あんたがマナーに困ることなくしっかり出来りゃ、あたしゃそれでいいんだよ」

 周囲はもう暗い。外灯が申し訳なさそうに点灯しているだけの道路は晩餐会の会場ら比べてとても暗い。だがそれでも、隼鷹からこぼれる輝きは俺の目を奪い続けていた。

「隼鷹」
「んー?」
「手、繋いでくれるか?」
「なんで!?」

 なんでだろうなぁ……なんか、ずっと隼鷹に右手を制止しておいてもらいたいような……困ったように頭をボリボリと掻く隼鷹の左手には、トノサマ洋装店の店主からもらった指輪がキラキラと輝いていた。

「……わーかったよぉ!」

 観念したように、困った表情を浮かべながら……でもほっぺたを真っ赤に染めながら……隼鷹はキラキラと指輪が光る左手で、俺の右手を取ってくれた。

「ほら!」

 我ながら子供だ。こうやって隼鷹が手を繋いでくれただけで、耳に届くキラキラという音が大きくなった。

「ありがと」
「ったく……その代わりさていとくー」
「んー?」
「どっか寄ってかない? あたし堅苦しいの苦手でさ。あんま晩御飯食べた気がしないんだ」

 鎮守府に戻れば晩御飯の残りがあるだろうけれど……まぁいいか。紳士淑女の2人で居酒屋かどこかに入るか。俺もなんだかんだで食った気がしないしな。

「んじゃビールと餃子でも食べてくか」
「……サイッコーじゃん」

 帰り道にあった街のラーメン屋に入る。燕尾服にイブニングドレスの紳士淑女の俺達の前に並べられたのは、ラーメンと餃子という庶民グルメの代表格。酒もワインみたいな洒落たものではなくて、大ジョッキに注がれたビール。

「くふぉぁぁあああ……たまんねー……!!」

 ビールが届くやいなや隼鷹は盛大にビールを飲み煽り、口に真っ白い髭をつけながらおっさん吐息を吐き出していた。本人が言うには、ああいう格式張った場所というのは性に合わないらしい。確かに隼鷹にはこういうラーメン屋や場末の居酒屋の方が合ってる気がした。

 でも……飲んでいるのがビールでも、口に白い髭をつけていても、俺の耳に届く“星がこぼれる音”が途切れることはなかった。

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