第二章
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「寒さに備えていくか」
「そのうえでマエストロを出迎えよう」
「横浜まで行って」
「そのうえで」
関係者達、そして彼のファン達はだ。横浜の桟橋、ノースピアのそこに集まって船を待った。デル=モナコが乗っている船はというと。
「黒い貨物船か」
「マエストロはそれに乗って来られるか」
「いよいよ今夜か」
「今夜来られるか」
「いよいよだな」
こうしたことを話してだ、彼等はデル=モナコを待っていた。すると。
その黒い貨物船が来た、だが。
波が荒く夜だというのに白い波頭が見える、それでだった。
その荒れた海と船を見てだ、一人がこんなことを言った。
「オテロだな」
「ああ、そうだな」
「言われてみればそうだな」
周りも彼のその言葉に頷いた。
「オテロの第一幕だ」
「オテロが港に来る時だ」
「マエストロが一番得意とする役だな」
「そのオテロだ」
「来日しても歌うしな」
「オテロの登場シーンだ」
まさにその場面だというのだ。
彼等はこの状況にそうしたものを感じていた、デル=モナコが来るのに相応しいとだ。彼とオテロを重ね合わせていた。
そのうえでだ、彼等はこうも話した。
「マエストロを迎えるのに相応しい」
「そうした状況だな」
「荒れる波から船から降り立つ」
「そして我々はそのマエストロを迎える」
「いよいよだな」
「その時が来ている」
待っている者達は興奮さえしていた、デル=モナコを待ちつつ。海は荒れていて寒さが厳しいが熱気がそうしたものを凌いでいた。
「シニョール、デル=モナコ!」
埠頭から船に呼びかける声がしてデッキの一隅から黒い帽子が高々と振られている、夜だが帽子ははっきりと見えていて。
カメラのフラッシュが照明になっていた。そして。
船の中から声が聴こえてきた、その声は。
「喜べ!」
「!?」
「これは!」
「歌だ!」
誰もがわかった、その声が何なのかを。
イタリア語だった、しかし彼等には瞬時にわかったのだ。
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