第一章
[2]次話
歌役者
マリオ=デル=モナコが来日する、世界的なテノールである彼の来日を聞いてある者は耳を疑ってその話をした者に聞き返した。
「嘘じゃないのか」
「君もそう思ったか」
「彼がまさか日本にまで来て」
「歌うとはな」
「信じられない」
こう言うのだった。
「まさかと思うが」
「そのまさかと言えば」
「余計に信じられない」
こう答えるばかりだった。
「まさかそんなことが」
「いや、私も最初はそう思ったが」
「本当なのか」
「あちらで正式に決定したことが」
「来日して歌うと」
「旅行じゃなくてだ」
「仕事として来てか」
「歌う、しかもその歌う役はだ」
それは何かというと。
「オテロだ」
「彼の最大の当たり役のか」
「オテロのタイトルロールだ」
まさにその役をというのだ。
「歌うとのこと」
「夢の様な話だ、彼が日本に来てくれて」
「しかもオテロを歌う」
「その様なことが有り得るとは」
「だがもうあちらで予定に入った」
デル=モナコの方でというのだ。
「だから間違いない」
「来日してオテロを歌うのか」
「そうだ、楽しみだな」
「楽しみどころじゃない」
彼はこう返した。
「夢を見ている気分だ」
「しかし夢じゃない」
「現実だな」
「彼は来るのだ」
そしてオテロを歌うというのだ、そして実際にだった。
デル=モナコは来日することになった、実は数年前に来日の話が出ていたがこれは当時のデル=モナコの事情で実現せず多くの者が残念に思った。しかしそれが遂に実現することになり。
多くの者が彼の来日を待った、だがここで大きな問題が起こった。
「えっ、船でか?」
「船で来るのか」
「飛行機ではなくか」
「船でか」
「どうも彼は飛行機が嫌になっているらしい」
そのせいでというのだ。
「トラブルに遭ったらしくてな」
「それでなのか」
「船でくるのか」
「そうするのか」
「そうらしい」
こうした話が関係者達の間で為されていた。
「飛行機は墜落する」
「マエストロはそれを気にしているらしい」
「だから船で来るそうだ」
「アメリカでの仕事の後で」
「こちらに来るらしい」
世界的な歌手であり欧州だけでなくアメリカでも仕事をしている、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でもよく歌っている。
そのアメリカから船で来日する、このことも決まっていた。
このことからだ、デル=モナコを出迎える準備が整えられていった。
船が来る日時は一月二十三日の夜だった、場所は。
「横浜か」
「そこのノースピア桟橋か」
「寒い場所だからな」
「それも夜だ」
真冬のそうした場所だからというのだ。
[2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ