第八章
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沙耶香はタルトを食べ終えると共に二本目のモーゼルも飲み終えた、甘口のそれを飲み終えて勘定を払ったが。
「チップもね」
「入れてくれたのかい」
「ええ、楽しませてもらったから」
「気前がいいね、しかし全然酔ってないね」
顔を見れば白いままだ、目も充血していない。
「強いのかい?」
「少なくともそう簡単には酔わないわ」
「そうみたいだな、日本人は酒に弱いっていうが」
「人それぞれよ。私はね」
沙耶香はというと。
「この通りよ」
「強いんだな」
「ワイン二本位ではこうしたものよ」
顔には全く出ないというのだ。
「そして飲んだ分だけ動くし遊んでもいるから」
「太らないってことか」
「そうなの、私はね」
「まあ痩せてるのは日本人らしいか」
よくある日本人の世界での見立てもだ、シェフは話した。尚日本人は実際に肥満度指数は世界ではかなり低い方だ。食生活が大きく関係しているらしい。
「そこは」
「よく言われるわ」
「痩せる仕事な、手品ってのはそんなにカロリーを使うのか」
「私の手品はそうよ」
「それはまたいい手品だな」
「飲んで分はそれこそね」
沙耶香はシェフに真実を隠したまま話した。
「すぐに消費されるのよ」
「マラソンみたいにか」
「マラソン以上よ、私の魔術は」
こうも言ったのだった。
「気力も体力も使うのよ」
「成程な」
「だからね、かなり飲んで食べても」
「いいんだな」
「太らないのよ、むしろ飲んで食べないと」
「もたないのか」
「そうなの」
微笑んで話した。
「多分今夜もだしね」
「仕事をするのか」
「それで東京からここまで来たのよ」
どうした仕事かは言わない、シェフが手品師と思っているのならそれで好都合だからだ。それで言わなかったのだ。
だがそのままでだ、沙耶香はシェフに話した。
「これはエネルギー補給よ」
「味も楽しんだうえのか」
「そうよ、ではね」
「ああ、仕事頑張ってきなよ」
「そうさせてもらうわ」
チップも含めて金を払ってからだ、沙耶香は店を後にした。
沙耶香は夜のベルリンの中を進みやがてシュプレー川沿いにあるビーチのところに来た。昼は人で賑わっている場所だが。
もう夜遅いので今は誰もいない、シュプレー川の輝きが夜の闇の中に見えて町並みをその水面に夜の灯りに照らされているのが見える。ビーチの席やパラソルはあらかた仕舞われ店もこの時間は営業していない。
沙耶香は人通りのないそのビーチを一人で歩いていた、だが。
その沙耶香にだ、前から声をかける者がいた。
「そこの女、用がある」
「何かしら」
沙耶香はその声に余裕のある態度で返した。
「私に用とは」
「御主、罪を犯したな」
「罪というとお昼のことかしら」
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