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霊群の杜
書に潜む
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鴫崎は強引に文明堂の袋をひったくると、銅鑼焼きの包みを2個引っ張り出した。奉が何か言いたげにするが、2、3秒躊躇った後、諦めて本に目を落とした。

さすが元いじめっ子。堂に入ったジャイアニズムだ。



小学校の頃、一時的に。本当に一時的にだが、奉は所謂『虐め』の対象になったことがあった。あの性格と、ここらの地主の息子というエッジの効いた属性のせいだろうが…。奉を虐めていたのはクラスで一番の荒くれ者、鴫崎だった。体格いいし、運動神経も抜群で、誰も意見出来なかった。
他の子供達は、奉の事はどちらかというと畏れていた。子供特有の七不思議だ。


―――玉群の『奉』に関わると、祟られる。


それは何か、生まれてこのかたずっと関わり続けている俺がそんなに祟られて見えるのか。と納得のいかない噂話だったが、子供というのはとかく怖い話を好むもので、玉群奉 祟り神説はあっという間に定着した。
で、俺以外の子供は自分から関わろうとはしないし、奉も自分から話しかけるタイプではないので、俺は小学校の6年間、恐らく意図的に同じクラスにされ続けた。奉の母さんからは春休み中から『今年も奉をよろしくね』と声を掛けられていたので、玉群の力が働いていたのだろう。
幸か不幸か、そういう事情もあり、奉への虐めは鴫崎のソロ活動にとどまった。そうなると彼は面白くない。いくら周りを誘っても、誰も乗って来ないのだから。いつもなら自分の号令と共に当面の『生贄』が決まったというのに。
「あいつが只のモヤシと証明してやる!!」
そう言い残し、鴫崎は教室を飛び出した。奉はため息混じりに本に目を落とすのみだった。『ま、いいか』とか呟いていた気がする。そして彼は玉群の鳥居に小便を引っ掛けるという暴挙に出たのだ。
どうだ、祟りなんかないんだよ、こいつは只のモヤシだよ!と勝ち誇りながら教室に戻った彼の姿を見たクラスメイト達は、一斉に恐ろしい悲鳴を上げた。
「えっ…な、なんだよ」
クラスメイト達の異常な反応に驚いた鴫崎は、左右をきょろきょろ眺めまわした。そして徐に、自分の足元に目を落とした。
「う…うわぁあああああ!!!」
あの時の、人が虚の状態から恐怖に引きつるあの表情の変化は忘れられない。…その『祟り』も。


鴫崎の体中に浮かび上がった、見た事もない血染めの文字。その文字からは鮮血が、生き物のように滲み続けていた。


そんな感じで奉のえぐい『祟り』は、クラスを恐怖のどん底に突き落とした。女子は泣きじゃくるし男子は逃げ惑うし、奉はまたこいつはこいつで血染めのクラスメイトを前に『神代文字だねぇ…』とか呑気な事云っているし。集団ヒステリーは、鴫崎が早退するまで続いた。
その日以来、鴫崎は暫く学校を休んだが、祟りに巻き込まれる事を畏れたクラスメイト達は誰も鴫
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