最終話 みんなの笑顔
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自分が戦えば戦うほど、見知らぬ誰かが不幸となり、「笑顔」という希望から遠ざかって行く。そう実感したラオフェンは、彼の窮状を憂いたハリオンの提案を基に――ある一つの決断を下す。
それは、終戦に乗じた脱走。
「ラスト・コア」を破壊し、世界をUIから救って見せたラオフェンは、その足で宇宙の彼方へと旅立ち――最寄り惑星ロッコルへと身を寄せた。
それは漂着ではなく、ハリオンの采配によるものである。彼の幼少期からの悪友であったジャックロウは、旧友の連絡通りに現れた救世主を匿い――ポロッケタウンへと誘った。
そして乗機の加速タイプのコスモソードを、ハリボテの外装で覆い隠した彼は――ポロッケタウンの竜造寺カケルとして、新たな一歩を踏み出したのである。
あの日思い描き、今はもう叶わない――人々と笑い合う未来を、新天地に築くために。生まれ育った故郷さえ、捨てて。
ラオフェン・ドラッフェの戦死をハリオンが公表し、彼を利用せんと企んでいた権力者達の目論見が阻止されたのは、その頃の話である。
――そうして、永遠の眠りについたはずの獅子が、その眠りを妨げられ。今まさに、怒りの雄叫びを上げようとしていた。
◇
(やるな――こっちは三年間、憂さ晴らしの戦い漬けだったってのに。あっちはまるでブランクってもんを感じねぇ。曲芸だか何だかで遊び呆けてるって聞いたから、いっちょ目を覚ましてやろうと思ったのによ)
セドリックとしては、自分を打ち負かした最大のライバルが、戦いから離れて呑気な曲芸飛行士をやっていることが許せなかった。
ゆえにその目を覚ましてやる、と意気込んでの今回の奇襲であったが――自分の攻撃を軽々とかわす、往年と遜色ない彼の機動を前に「嬉しい誤算」を感じていた。
ラオフェン・ドラッフェの腕は、三年もの間、砂漠の星に埋れていても……全く錆び付いていなかった。
それが証明されただけでも、収穫としては十分だった。もう現時点で、「ラオフェン・ドラッフェ」との再会を夢見たセドリックの目的は、達成されたと言っていい。
――だが、強欲な宇宙海賊はこの機に乗じ、あの日叶わなかった決着を付けようと目論んだ。加速タイプのコスモソードに肉迫すべく、漆黒の機体が唸りをあげて襲いかかる。
「さっき潰した格闘戦タイプの二機だって、終戦後に改修された後継機だったはず。なのに、あの日から弄ってない上にドッグファイトにも不向きな加速タイプでありながら、あの二機に勝る回避運動……。やはりお前は『ラオフェン』だよ、竜造寺カケル」
通信は繋がっていないが、セドリックは言い聞かせるような独り言を、赤い鳥の背に浴びせる。――その操縦桿を握る主は、普段決して見せない眼差しで、背後につきまとう宇宙海賊を一瞥した。
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