第6話(改2.6)<戦闘収束と憲兵>
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うしたの?」
そして男性は何故か私に助けを求めるような哀願の目をした。その気持ちが痛いほど伝わってきたが、どうすることもできない。
咄嗟に私は少女の顔を見た。だが彼女も静かに首を振った。
「……」
「だめ……だよな」
このやり取りで場の空気が変わった。
年配の男性は急に大人しくなり病院の職員に自ら手を出して従う様子を見せた。皆、ほっとした。
「では、失礼します」
他の職員は私に敬礼をして立ち去った。
「……」
何とも言えない気持ちになったが気を取り直し帽子を被り直すと少女に声を掛けた。
「行こうか?」
「……」
彼女は頷いた。私たちは逃げるようにその場から離れた。
線路脇の小道を境港方面へと歩き始める。
「ここは美保鎮守府から遠いのだろうか」
「……」
歩きながら尋ねた。
「君の名は?」
「カヨ……」
急に立ち止まった彼女は直立の姿勢を取って敬礼をした。
(えっ)
思わず私も敬礼をした。習慣だ。
彼女は言った。
「駆逐艦『寛代』と申します!」
意外に低めの声。
「提督を美保鎮守府の司令官として、お迎えに参りました!」
(何だ? ちゃんと敬語も使えるじゃないか)
無口な感じで普段から、ほとんど喋らないのだろう。
「ご苦労」
私は返した。意外なことだらけだ。
……にしても出迎えの子が、なぜ私と一緒の列車に乗っていたのか。
(列車を間違えたのか?)
いろいろ聞きたいが我慢して敬礼したまま固まっている彼女に命令した。
「もう良いよ、歩こう」
この言葉で腕を下ろした寛代。
「暫く歩くか」
「……」
私は煤で汚れたカバンを軽く払って持ち直すと線路と平行に歩き始める。少女も従った。
「さて、どのくらい歩くのかなあ」
「……」
「街道筋に出ればバスが捕まるかも」
「……」
敵の攻撃で忘れてた。今は真夏だ。日本海側の夏は晴天が多い。
ジリジリ照り付ける陽射しが眩しい。私は制帽を軽く持ち上げて汗を拭った。
少し行くと前方に敵機の残骸が見えた。まだ黒煙を吐き、焼け焦げた悪臭と時折バチッと火花が散っている。
用心しながら、さらに近づく。
「ほう」
改めて敵機の頑丈さと、それすら貫いた艦娘の砲撃の威力を実感した。
深海棲艦を至近距離で見るのは初めてだ。撃墜すれば直ぐに海へ沈む。おまけに海軍の私が陸上で戦うことは有り得ない。
「惜しい」
貴重な敵の情報源だが、今は鎮守府へ向かわなければ。
すると寛淑が私の後ろに視線を移していた。
「ん?」
背後から複数台の発動機の音が近づいてきた。
振り返ると先頭車両に憲兵が数名乗っていた。
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