第1話(改3.4)<7月21日>
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音を響かせた後に、ゆっくりと発進した。
敬礼を続ける男性を見ていた私は、あれ? と思った。
(どこかで出会ったかな)
彼の顔に何となく見覚えがあった。だが顔見知りではなさそうだ。
「気のせいか」
彼が視界から消えた後、私は改めて座席に座り直した。
今回、着任するのは鳥取県境港市にある美保鎮守府。
艦娘だけで構成された鎮守府。海軍でも、まだ珍しい存在だ。
今では艦娘だけで戦うことが主流になったが、それでも長らく艦娘だけの鎮守府は存在しなかった。
今でも軍での娘の存在を快く思わない強行派が敢えて敵に艦隊戦を挑むことがある。しかし結果は明白、ほとんど無意味だった。
なかなか艦娘だけの部隊が作られなかった理由が強行派連中の面子かどうかは知らない。
しかし一昨年、ようやく実験部隊の名目で山陰地方に初めて鎮守府が設置された。私は改めて自分で調べたメモを取り出して確認する。
<美保鎮守府>
・某92年7月21日開設:ちょうど2年前の今日だ。
・初代提督は女性:私の兵学校時代の恩師だ。だが半年くらい経った頃、突然彼女はその任を降りてしまった。理由は不明。
・以後の美保鎮守府では男性の提督が何人も着任:だが、いずれも長続きしなかった。理由は分からない。噂では艦娘との折り合いが難しいとか。最初の女性提督でも難しかったのに男性では、なおさらか。
・結局、半年前からは提督不在となっていた:強行派の多い海軍内部からも美保は潰せという意見が出ていた。そこに降って湧いたような男性への着任辞令……それが私だ。
しかし現実は、さきの如くの体たらく。
「私は名提督でも何でもない」
思わず肩をすくめた。
「そもそも初陣で全滅させているくらいだからな」
正直、艦娘の指揮は苦手だ。彼女たちが嫌いなのではない、むしろ逆で、つい艦娘だと手心を加えてしまうのだ。
だからあの海戦も悩んだ挙げ句の出撃だったから、つい判断が鈍った。
私は後悔と悔しさに唇を噛んだ。
……それ以来、慎重な指揮を心掛けたから艦娘の犠牲は出ないが戦果も芳しくない悪循環を繰り返し、周囲からも陰口を叩かれている。
今回の特例人事が誰の発案か分からないが軍の命令は絶対だ。
「海軍の上層部もきっと自棄を起こしているに違いない」
私は苦笑して窓枠に肘をついた。
(ひょっとしたら私を当て付けて失敗した口実で、この鎮守府を終わりにするつもりか?)
そこまで考えて首を振った。
「止めよう、下手な考え休むに似たりだ」
私は分析を止めた。
……車窓には、のどかな田園風景が広がっていた。吹き込む風が嫌な気持を癒すようで心地良い。
以下魔除け
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