序章(改3.4)<白い海>
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擦り合うような音。
それは海中にも伝わってきた。
消え行く自我の中で旗艦だった彼女は呟いた。
アノコタチハ……ヨクヤッタ。
デモ、ワタシハ……
彼女は、よく作戦参謀と意見がぶつかったきを思い出した。
彼には遠慮すまいと思っていた。
それが彼女なりの責任感だった。
『やっぱり……反省すべきね』
薄れる意識の中、彼女は苦笑した。
フフフ……
(これは誰の声?)
彼女がそう思った瞬間だった。
むくむくと別の感情が沸き上がってきた。
押えがたい衝動だ。
ワタシモ、カエリタイ……
冷たい海の底へ沈みつつ手を伸ばす。
マタ……アイタイ。
その後、今回の舞鶴沖海戦の戦果が報告された。
<舞鶴沖:日本海海戦 戦果報告>
軽巡洋艦1:沈没
駆逐艦5:沈没
舞鶴鎮守府 艦隊6人を消失
以上
この戦いは、よくある敗北した戦闘の一つとして記され彼女たちの登録は抹消された。
また、この情報は後の艦娘の作戦資料として利用され終わったことだろう。
彼女の物語は、これで終わる。
誰もが、そう思う。
「大井っちの馬鹿……何で沈んじまったのさ」
彼女は遠くに見える山を見て呟いた。
すっかり日も落ち照明が灯る舞鶴鎮守府。
日中、強かった風も収まり舞鶴の海も凪いでいた。
その埠頭に立つ黒髪の艦娘。
「あんた最後まで参謀に黙って。それで良かったのかなぁ」
そんな彼女を陰から見守る一人の影。
「……」
彼女は背後の気配に気付いていた。
しかし気に留めない振りをして、その場を立ち去った。
その後ろ姿を見送ったのは、もう一人の参謀だ。
彼は黙って腕を組んでいた。
(今回の指揮を執った作戦参謀は解任されるな)
ジッと夜の海を見つめ考えていた。
階級からいえば次に作戦担当指揮官になるのは恐らく自分だ。
だか彼は、それを喜ぶでもなく淡々と受け止めた。
別に、それは目的では無かったから。
眼鏡を軽く押えつつ呟く。
「軍人に人間的感情は不要だ」
自分の中に湧く真逆の感情を押さえ込もうとしている。
それも分かっていた。
そんな矛盾した感情に『人間は不完全な生物だな』と思った。
少し風が出てきた。
彼は再び自分に言い聞かせるように呟く。
「艦娘と過度に交わると人は不幸になる」
そしてコートの襟を立てた。
「良い。これで一つの時代が終わる」
彼もまた埠頭を後にした。
舞鶴の艦娘たちの轟沈。
彼女の物語は、これで終わる。
誰もが、そう思う。
だが、ここから「みほちん」の物語は始まる。
以下魔除け
Reproduct
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