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文字柱
第四章

[8]前話
 だからこそだ。彼は家臣達に命じたのである。
「ならばじゃ。その言葉を城に入れればじゃ」
「石垣はその力で崩れない」
「そうなりますか」
「そうじゃ。そして百万一心じゃが」
 その言葉の意味についても話す元就だった。
「その言葉の意味じゃが」
「はい、それは一体どういった意味でしょうか」
「百万一心とは」
「百万の者の心を一つにするということじゃ」
 そうした意味の言葉だとだ。元就は笑顔で話した。
「そうした意味じゃ」
「そうだったのですか。百万一心とはですか」
「そうした意味の言葉でしたか」
「では百万の者の心を一つにすれば」
「それで石垣もまとまりますか」
「わしはそう思う。一人の命より百万の心の方が強い」
 元就は確かな笑みで家臣達に話す。
「どうじゃ。わしはこれでいこうと思うが」
「ううむ、そうですな」
「殿のお考え通りです」
「そうした考えがあったのですな」
「文字に百万の心を込めて城に入れる」
「さすればですな」
「うむ。よい」
 間違いなくいいと答えた元就だった。こうしてだった。
 城の石垣にその百万一心という言葉が刻まれた石が入れられた。そのうえで石垣の修繕を再開するとだ。文字の力故にであろうか。
 石垣の修繕は無事終わった。家臣達もこのことには驚きを隠せなかった。
 そしてその整った石垣を見ながらだ。彼等の中心にいる元就に言うのだった。
「まさに殿のお考え通りです」
「見事に整いました」
「人柱なぞ入れずとも整いました」
「こうすればよかったのですか」
「そうじゃな。人なぞ入れても何にもならぬ」
 元就も整った石垣を見ながら満足している顔で言った。
「それよりも言葉じゃ。言葉に込めた心を入れればじゃ」
「まとまらぬものはない」
「そういうことですな」
「そうじゃ。これからはこうしようぞ」
 人柱ではなくだ。言葉を入れるというのだ。94
「それでよいな」
「はい、さすれば他の城の時も」
「そうしましょうぞ」
 家臣達も元就の言葉に笑みで応える。こうしてだった。
 毛利家の城にはその百万一心の文字が刻まれた石が入れられる様になった。この言葉により人柱はなくなった。そして毛利家の心も一つになった。
 様々な謀略を使ってきた元就の逸話の一つだ。多くの者を殺めてきた彼だがこうした話も残っている。己を悪と言っていたがその彼がだ。多くの者の命を救い心を一つにさせたのは矛盾していることであろうか。


文字柱   完


                              2012・3・22
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