隼は太平洋を翔る夢を見るか?・後編
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「提督、アタシの今日の任務……覚えてる?」
確か今日の隼鷹の任務は、駆逐艦と重巡数隻を連れて外洋に出る客船の護衛だったか。今のご時世に船旅とはとんだ道楽者だ、と依頼書を読んで思ったものだ。
「まぁ、大体はな。」
「その客船がさ……アタシの妹だったんだ。」
ぶほっ、と思わず口に含んだマティーニにむせかえる。隼鷹の妹?一体どういう意味だろうか。艦娘になる前の彼女らの出自は明らかにされていない。その艦娘になる前の女性としての妹なのか?それともーー…
「いや、アタシのーー『商船改装空母・隼鷹』の妹さね。」
「アタシが空母になる前の事は提督も知ってるだろ?」
隼鷹という船は元々、戦時下に於いては海軍が徴用するという契約の下、海軍が色々と便宜を図って建造された日本郵船保有の客船だったはず。名前は確か、
「橿原丸、か?」
「そうそう、橿原丸。その妹に当たる船ーー飛鳥が護衛対象だったんだ。」
今は名前変わってたけどね、と隼鷹は少し悲しそうに笑った。
「もうね、スッゴい白くて綺麗な船体に豪華な飾り付けでさ。おまけにプールまであるんだよ?」
アタシにも昔はあったんだけどね〜、と無理に茶化したように笑う隼鷹。その目には、うっすらと光る物が見える。
「何かさぁ……あの戦争が無かったら、アタシもあんな綺麗な船になれてたのかなぁ、って思うとさ……」
堪えきれなくなったのか、グスングスンと鼻を鳴らし始める隼鷹。その泣き顔はいつもの飄々として明るい彼女の面影は無く、傷付きやすい、いたいけな少女のような真っ赤に腫らした顔があった。
「あーもー、折角の美人が台無しだぞ?全く……。」
化粧が崩れた顔は見せたくないだろうと、暖かいおしぼりを手渡してやると、ありがと、と鼻声でお礼を言われた。おしぼりで隼鷹が顔を覆ったのを確認すると、
「なぁ隼鷹。お前、空母になって辛い事ばかりだったか?苦しくて、悲しい事ばかりだったか?」
教え子に優しく諭す教師のように。イメージはそう、金〇っつぁんのように。
「違うだろ?楽しい思い出も、沢山の仲間も出来たろ?なら、悲しい事ばっか考えるなよ。お前に涙は似合わん。」
う、う……とくぐもった呻きがおしぼりの中から聞こえ始めた頃、ドアがけたたましく開かれた。
「あ〜っ、やっぱり隼鷹コッチにいたぁ!!」
「何か泣いてるんですけど〜っ」
「あ!!提督が泣かせたんでしょ!そうなんでしょ?」
那智、足柄、千歳に飛鷹。いつもの隼鷹の飲み仲間だ。
「ち、違うよぉ。ちょっと今日はセンチメンタルな酒を飲みたかったの!!」
「なぁ〜に言ってんのよっ、アンタにはぁ、涙は似合わないんだからっ。」
コッチもい
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